松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
修造が羨む、パラ・パワーリフター
大堂秀樹の競技者向きメンタル。
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph byYuki Suenaga
posted2019/03/12 10:30
どんな時でもわが道を行く、とんでもなく前向きな思考の大堂に、松岡も脱帽!
「今からすごく失礼なことを聞かせていただきます」
松岡「でも、笑顔の裏で辛い経験もしてきたんじゃないですか。前回のリオパラリンピックはケガを押しての出場でした。ロンドンで入賞して、リオではメダルを期待されていた。それなのにケガで本来の力を発揮できなかった」
大堂「あれは確かにきつかったですね。まあでも、上がらないもんはしょうがないから、やるだけのことはやってこようと。リオの時はルールも異常に厳しくて、それにも戸惑いました」
松岡「ルールが厳しいとはどういうことですか」
大堂「上げているときにちょっとのブレも許されない。今までそれほど厳格じゃなかったのに、リオだけが異常に厳しかったんです。だから初日からけっこう失敗する選手が多くて、逆にこれだったら8位以内入賞なら狙える、と思ったんです。自分がすごくきれいなのを一発上げたら、パワーはあっても上げ方の汚い選手はハネられるはず。そうしたら案の定、1位2位争いをしていた2人が失格になって、なんとか入賞をもぎ取りました。これは1つの賭けでしたけどね」
松岡「すごくポジティブですね。今からすごく失礼なことを聞かせていただきます」
大堂「待って! 心の準備が……。はい!」
「人がどう思うかなんて……」
松岡「周りはメダルを期待していた。でも、自分の中ではケガのこともあるし到底メダルまでは届かないと理解している。そういう時って選手の口からは消極的な言葉が出てくると思うんです。『期待に応えられずすみません』とか、そうではなかった」
大堂「自己ベストに遠く及ばない160kgでしたから、情けない記録だとは思いましたよ。ただ、世の中って何kg上げたという記録よりも、メダルを獲ったか、入賞したかがすべてじゃないですか。3位と4位の間には天と地ほどの差があるけど、4位も8位も同じ。だから、ケガを抱えて臨むこの大会は8位でオッケー、と腹をくくってました」
松岡「これが今の自分ができる最高の結果だと。記録を見たら、ロンドン大会で191kg上げている人が、なんでリオで160kgなんだと思う人もいるかもしれない。それは言わせておけと」
大堂「人がどう思うかなんて、自分が考えてもどうしようもないことなので」
松岡「なんだかうらやましいなあ……。選手向きというのが、とてもよくわかる気がします」
大堂「大事なのは、次をどうするかですね。選手である以上は、次に進まないといけないので。現役の間に取り返せば良いじゃないですか」