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バルサとレアルを除いた“首位”は?
バレンシアとエメリ監督の現在と未来。 

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工藤拓

工藤拓Taku Kudo

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posted2011/01/31 10:30

バルサとレアルを除いた“首位”は?バレンシアとエメリ監督の現在と未来。<Number Web> photograph by AFLO

バレンシアCFにおいて、クラブ史上最年少となる36歳で監督就任を果たしたウナイ・エメリ監督。2004年に始めて監督になってから、わずか5年の快挙であった

二枚看板の喪失を組織力でカバーした若き監督の功績。

 好調の要因は新戦力のスムーズなフィットに加え、39歳にしてクラブ3年目を迎えたウナイ・エメリ監督によるチーム作りの功績が大きい。

 昨季までのバレンシアの攻撃は、シルバの「チスパ(閃き)」とビジャの決定力に依存する部分が大きかった。

 2人を失ったエメリ監督は今季、4-2-3-1と4-4-2、時に4-3-3や3-4-3にシステムを柔軟に変化させながら、これまで以上に個の力に頼らない組織的な攻撃の形づくりに努めてきた。フィニッシュの部分だけは個の力に頼らざるを得ないため、昨季と比べ得点力は落ちた(35→29得点、19節終了時点)が、それでも4人のアタッカーがめまぐるしくポジションを入れ替え、そこに両サイドバックも加わるスピーディーかつ連動したサイドアタックの質は、好不調の波はあるものの確実に高まってきている。

監督の契約は今季いっぱい。続投の可能性も低い!?

 にもかかわらず、クラブ執行部のエメリ監督に対する評価は驚くほど低い。

 試合後マヌエル・ジョレンテ会長がエメリ監督の采配にケチをつけたのは1回、2回のことではなく、練習場では2人が激しく口論する姿が何度も目撃されている。最近では6月30日で契約満了となるエメリ監督が契約延長を結ぶのは難しいとの報道をよく目にするようになった。他に具体的な後任候補などいないにもかわらず、である。

 理由はいくつかある。

 ビッグゲームで露呈する、理屈を超えるような勝負強さが望めないこと。試合中に起こる不測の事態に直面した際の応用力のなさ。自身の選手起用法やシステムに不満を漏らす選手、ピッチ外での素行の悪さが目立つ選手との衝突で露わになる薄い人心掌握術、コミュニケーション術の未熟さ――。39歳の青年監督が持つそういった欠点が、特に同会長にとって気に入らないものらしいのだ。

『アス』紙のミゲル・アンヘル・バラ記者によれば、同会長とブラウリオ・バスケス技術顧問が進めている来季へ向けた補強において、エメリ監督は全く意見を求められていないそうだ。それどころか彼は、先日決まったDFアディル・ラミ(リール)の獲得、GKジエゴ・アウベス(アルメリア)やFWケビン・ガメイロ(ロリアン)への興味といった情報を全て、マスコミを通じて知ることになったという。

 2年契約の2年目だった昨季もエメリ監督の続投は疑問視されていた。

 続投の決め手となったのは目標のリーガ3位を達成したから。それでも続く2年契約を望んだエメリ監督の希望は聞き入れられず、結ばれたのは今季いっぱいの単年契約だった。それはクラブが見ているのは結果だけであり、エメリ監督の仕事内容は評価の対象となっていないことの証明と言えた。

【次ページ】 ファンにも理解されないエメリ監督の仕事ぶり!?

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