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バルサとレアルを除いた“首位”は?
バレンシアとエメリ監督の現在と未来。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2011/01/31 10:30
バレンシアCFにおいて、クラブ史上最年少となる36歳で監督就任を果たしたウナイ・エメリ監督。2004年に始めて監督になってから、わずか5年の快挙であった
ファンにも理解されないエメリ監督の仕事ぶり!?
同様に、ファンの評価も低い。
地元紙『スーペル・デポルテ』が先日ウェブサイトで行ったアンケートでは、「今季の成績にかかわらず延長する」が17%(96票)、「CL出場権を獲得すれば延長する」が36%(200票)、「延長しない」が46%(257票)。
バレンシアの監督としてリーガ50勝目を挙げた19節デポルティーボ戦の終了時点で、エメリ監督のリーガにおける通算勝率は52.63%。これは'03-'04シーズンのリーガ&UEFAカップ制覇などでクラブの黄金期を築いたラファエル・ベニテス元監督の53.5%とたいして変わらない数字である。
また19節終了時の勝ち点37は、ベニテス元監督が2度目のリーガ制覇を成し遂げた'01-'02シーズンの同節終了時点より4ポイントも多い。2強が今ほど異常に強くなければ、優勝を争っていてもおかしくない成績なのだ。またベニテス元監督の時代と現在のクラブの経営状況を比べれば、エメリ監督の残してきた数字はさらにその価値を増すことだろう。
しかし、国内やヨーロッパでタイトルを争っていた頃の幻影にとらわれ続ける地元ファンは、その時代にも実現できていなかった「スペクタクルとタイトルの両立」を要求し続けている。それがホーム・スタジアム“メスタージャ”の試合でよく見られるチームに対する異常なまでのプレッシャーにつながっている。2年間タイトルを獲れなかったエメリ監督では力不足。チームの好不調にかかわらず、メスタージャのスタンドでは常にそんな空気が漂っているように思えてならない。
結局、評価の基準はタイトルのみ。となると続投は……。
チームが結果を出している現状、唯一エメリ監督の続投を支持しているのが選手達だ。先日ホアキンは「自分が決められるならもちろん続投。それも1年ではなく複数年でね」とコメント。アドゥリスも同様に「チームは100%監督の味方だ。彼はとても良い仕事をしてきた。自分なら続投してもらう」との考えを示している。だがそれも、結果が出なくなればどうなるかは分からない。実際に昨季ホアキンは「(右サイドで併用される)自分とパブロのローテーションは双方に悪影響をもたらしている」と不満を漏らしている。
先日行われた会見で自身の続投有無について問われたエメリ監督は、プレセンテ(=現在)という言葉を繰り返し使い、次のように答えていた。
「プレセンテ、プレセンテ、プレセンテ。未来を決めるのはプレセンテであり、私はプレセンテを生きている。自分にとっての未来は明日だからだ」
結果が全てというのなら、目の前の試合に勝つことだけに集中するしかない。そんな刹那的な姿勢でエメリ監督は1試合1試合に臨んでいる。ファンからもクラブからも信頼を得られず、結果との孤独な戦いを続ける青年監督。CL再開を目前に控えた今、彼は自身の未来を賭けた正念場を迎えようとしている。