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東浜巨が後輩・千賀の自主トレで
発揮したハンパじゃない引き出し。
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKoutaro Tajiri
posted2019/01/30 10:30
東浜巨はチームメイトの千賀も参加した自主トレで、じっくりとフォームをチェックし直していた。
最多勝投手が持つ吸収力。
鴻江合宿には毎年多くのプロ野球選手が訪れる。15年近くその様子を現場で見てきたがほとんどの選手は面食らい、頭で分かっても体で表現するのに時間を要する。幼いころから習慣づけたやり方を一変させるのは容易なはずがない。
だからか、鴻江合宿にやって来るのは切羽詰まった選手が多い。「駆け込み寺」とも称される。ちなみに昨年、この合宿できっかけを掴み、大きく飛躍を遂げたのが西武の榎田大樹だった。
しかし、東浜は2年前のパ・リーグ最多勝投手である。昨年は一時故障したが、一軍復帰した後は6連勝をマーク。実績十分である。そんな選手が果たしてどのような反応を示すのか。それはとても興味深くもあり、心配のタネでもあった。
ただ、それは杞憂だった。
「自分に合う体の使い方を求めていく中で、一度全部壊してもいいというくらいの気持ちでした。周りはそうやって気を遣ってくれるけど、遠慮なくどんどん言ってくださいと思っていました」
引き出しの数がハンパじゃない。
東浜の吸収力にはただただ驚いた。1日目で指摘された部分を体で表現出来ていたし、2日目には周りに順序立てて説明出来るまでになっていた。自分の言葉でアウトプット出来るのは、完全に自分の頭の中に入っている証拠である。
「常に上を目指すのなら、現状維持ではいけない。今までやって来たことも大切ですが、新しいことを求めていかないといけない」
とはいえ、言うは易し行うは難し、だ。プロ野球選手は皆そう口にするが、実際に行動に移せる選手ばかりではない。
「僕は亜細亜大学にいたおかげだと思います。亜細亜って厳しいとか根性論だとかってイメージを持たれがちなんですが、すごく頭を使って練習を行うんです。生田(勉)監督が毎年新しいことを取り入れる。僕が居た4年間も毎年取り組みが変わりました。
僕自身のピッチングも4年間、全て違うテーマ、新しいことを取り入れながらやっていました。周りからよく『東浜って総合力のピッチャーだよね』と言われていましたが、それは僕が色々なやり方で相手を抑えていたからだと思います」
鴻江氏の理論は東浜をハッとさせるものばかりだったが、冷静になると、かつて自分で考えて試したやり方と似ていたことにも気づいたという。持っている引き出しの数がハンパじゃない。東浜の凄みを改めて知った3日間の合宿でもあった。