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偉大な王者シューマッハーの長男が
20歳にして叩いたフェラーリの門。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byAFLO
posted2019/01/27 10:00
来季F2プレマチームに参戦するミック・シューマッハー。プレマはF1で来季フェラーリに乗るC・ルクレールも送り出している。
敢えて選択した回り道。
カート時代のミックは優秀な走りを披露していたものの、チャンピオンを獲得するほどの速さはなかった。そんなミックが'14年になると突然、注目されるようになる。
前年末にスキーの事故に遭ったシューマッハーの一家に対する報道が過熱し、ミックがミハエル・シューマッハーの息子であることが世間に明らかになったからだ。
そのため、この年から彼は本来の名前である「ミック・シューマッハー」としてレース活動を行なう決断を下す。これによってメディアからの注目度が上がると、それと比例するかのように成績も向上していった。
'16年にヨーロッパのF4選手権で2位になると、'18年にはヨーロッパF3選手権で、ついに頂点に立った。
注目したのはメディアだけではない。多くのF1チームも、その才能に目を留めた。
F3王者となったことで、ミックがF1ドライバーに必要なスーパーライセンスの申請に十分なポイントを獲得したからだ。一部のチームは、'19年のレースシートをオファーしていたほどだった。
だが、ミックはここで敢えて回り道を選択した。'19年はF1直下のカテゴリーであるF2選手権への参戦を選び、同時にFDAにも加入したのだ。
F1で成功することこそが夢。
ミックの夢は、単にF1ドライバーになることではなく、F1の世界で成功を収めることなのだろう。いま大切なのは、成功への礎を築くこと。そのためには、父ミハエルが大きな成功を収めたフェラーリとともに戦うことだ、と考えたのではないか。
史上最多7度の王者に輝いたミハエルが持つもうひとつの偉大な記録が、これも歴代最多の「91勝」だ。誰にも破られないと思われてきた数字だが、昨年5度目のチャンピオンとなったルイス・ハミルトンが、いまその記録に急接近している。ハミルトンが昨年同様の活躍を続ければ、あと2シーズンで追い越す計算となる。
そうなった場合、ミックが再びその記録を塗り替えるには、F1にデビューした直後から大活躍しなければならない。
父ミハエルがF1にデビューしたのは、ハミルトンと同じ22歳。そしてミックは今年の3月で20歳になる。つまりF2で1年を過ごした後にF1デビューしても、時間は十分ある。
シューマッハーの一家の戦いは、まだ終わっていない――。