ハマ街ダイアリーBACK NUMBER
さらばハマの兄貴、ゴメス後藤武敏。
楽天コーチで平石監督を男にする。
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byKyodo News
posted2018/11/28 08:00
引退セレモニーでは横浜高で春夏連覇を達成した松坂大輔、小池正晃コーチと記念撮影も。
引退試合は勝負所の代打。
後半戦、チームはAクラス入りに向けて厳しい戦いを強いられていた。以前であれば後藤は代打の切り札として一軍に昇格していたものだが、いくら戦況が苦しい状況になっても声が掛かることはなかった。
後藤は身を引くタイミングだということを悟り、決断した。元々、開幕前から今季振るわなければ引退をすると家族には伝えていた。
「だから潔く、スパッと決められましたね」
引退試合となった中日戦、後藤は7回裏に代打で打席に立った。横浜スタジアムに割れんばかりに響き渡るゴメスコール。中日とはまだ激しくAクラス争いをしていたシビアな場面だった。
今季初打席であり、プロ野球人生最後のバッターボックス。忖度なしのガチンコ勝負である。ピッチャーの笠原祥太郎は、カットボールでカウントを稼ぐと、最後はチェンジアップで後藤を空振り三振に仕留めた。
「チームが大事なときにもかかわらず、また、たいした成績を残していない僕にああいう花道を用意してくれたことに本当に感謝ですよ。まあ、空振り三振で終わるのは僕らしかったのかなって。それに子どもたちに“もう俺は終わりなんだぞ”って示すこともできましたしね」
引退セレモニー後に長男が。
この日は後藤の家族が招かれており、試合終了後のセレモニーの際には、長男と長女とともにリリーフカーに乗り、万雷の拍手を受けながらスタジアムを一周した。子煩悩な後藤が子どもたちに優しく寄り添う姿はとても印象的だった。
じつはこの日を境に、後藤家にある変化が訪れたという。嬉しそうに後藤は語る。
「小学校4年生の長男が、家に帰ってから『キャッチボールしよう』って言ってきたんですよ。じつはそれまで野球には興味がなくて、やるかと聞いても首を振っていたのに、突然、野球をやりたいと言い出したんです」
現在は野球チームに所属し白球を追っているという。子ども心に何があったのかは後藤も詳しくはわからないというが、あの現役生活を締めくくる渾身の空振り三振が長男の琴線に触れたことは間違いないだろう。