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世界の卓球界に広がる謎のマナー。
「0点で勝ってはいけない」は本当?
posted2018/11/27 10:30
text by
伊藤条太Jota Ito
photograph by
AFLO
今年10月に行われたユース五輪卓球男子シングルスの決勝で、張本智和と王楚欽(中国)が対戦した。
ゲームカウント1-1からの第3ゲーム、王楚欽の攻撃が冴えわたり、あれよと言う間に10-0になった。すると王楚欽は次のサービスをいかにも無造作に出し、甚だしいネットミスをした。わざとミスをして張本に1点を与えたのだ。
ここ15年ほど、中国から始まって国際大会にまで広がっている「完封回避マナー」だ。卓球のトリビアとしてテレビで紹介されることもあるし、先日引退を発表した愛ちゃんこと福原愛が、サービスミスをしようとして間違って際どく入って、逆にサービスエースになってしまったという笑い話もある。
それにしても、なんと珍妙なマナーだろうか。スポーツである以上は、勝つために全力でプレーすることこそが相手を尊重することであり、その競技を尊重することでありマナーであるのに決まっている。
10-0になったら諦めろ?
完封して相手の面子を潰さないようにとの配慮らしいが、誰にでも故意とわかるサービスミスをしてもらって、いったい何の面子が保たれるというのだろう。むしろ絶対に逆転されないという傲慢の表れなのだから面子を潰す行為のはずだ。
サッカーで大差で勝っている方が終了間際にオウンゴールで相手に点を与えたらどうだ。マラソンで1位の選手がゴール寸前に2位の選手を待ってわざと接戦でゴールしてやったらどうだ。卓球でやられているのはこれらと同じなのだ。
おまけにサービスミスで点をもらった方は、逆転しては失礼なので次のボールをわざとミスをしてそのゲームを終わらせることもまた「マナー」だという。実際、先述した試合で、張本は次のボールをわざとレシーブミスをしている。
これはつまり10-0になったら諦めろということだ。そんなことを推奨する「マナー」がいったいどこにあるというのだろう(ここにあるわけだが)。