草茂みベースボールの道白しBACK NUMBER
甲斐拓也を支える捕手用具の匠。
大阪の下町メーカーの技術とは。
posted2018/11/07 10:30
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph by
Hideki Sugiyama
広島を破った今年の日本シリーズで、最も評価を上げたソフトバンクの選手は甲斐拓也捕手だ。
第1戦で代走の切り札・上本崇司の二盗を阻み、第2戦では鈴木誠也、第3戦では田中広輔、第4戦では安部友裕、第6戦で田中、安部とすべて盗塁を刺した。レギュラーシーズンではリーグトップの95盗塁を記録した広島の足を、完全に封じ込めた。わずか2安打の野手がシリーズMVPに選ばれたこと自体が異例だった。
「投手が牽制だったりクイックを一生懸命やってくれた結果。自分の力だけではできないことなので、感謝したいです。広島が機動力を使ってくるのは予想していたので、準備はしていたんですが正直、不安が強かったです」
今季の盗塁阻止率.447は12球団トップ。パ・リーグファンには認知されていた甲斐キャノンは、見事に全国区になった。どこが優れているのか。2001年に.543など、リーグトップの盗塁阻止率を5度記録した谷繁元信氏は自身との意外な共通点を指摘した。
谷繁が語る自身との共通点。
「甲斐選手は捕手が身につけねばならない足のステップもしっかりできるんですが、体格がコンパクトというか、腕が短いのがいいんですよね。僕とそう変わらないでしょう? 二塁に素早く投げるには腕は短い方が絶対に得。もちろん肩じたいも強いとは思いますが、それだけでは刺せません。
メジャーリーグを見てもそうだと思いませんか? 体格に恵まれた捕手は決してスローイングが素早くないはずです。イバン・ロドリゲスは小柄で投げるのが早い。僕自身は1996年から1998年あたりまでが最も充実していたと思っています。技術が身につき、そこから少しずつ体の力が落ちていく。今の甲斐選手はそういう時期なんではないでしょうか」
谷繁氏のサイズは176cm、81kg。甲斐は170cm、80kgだからコンパクトさという点では甲斐の方が上かもしれない。多くのスポーツで長い方が有利なはずのリーチだが、捕手においては短さが武器になる。天から授かった才能といえるかもしれない。