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菊池雄星、エースという立場の苦悩。
勇気ある登録抹消から遂に一軍復帰。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2018/06/01 07:00
西武ファンだけでなく、アメリカからも熱い視線が注がれている菊池雄星。万全での復帰を期待したい。
勝ってはいても苦しい投球だった。
それでも、日本ハムとの開幕戦は7回2失点にまとめて勝利投手。続く2戦目のオリックス戦でも8回1失点で乗り切ることができたが、第3戦目の楽天戦から痛打を浴びる場面が目立つようになる。
その楽天戦は、初回にいきなり連打とホームランを浴びて3失点。チームが逆転したため勝利投手にはなったが、6回5失点の苦しいピッチングだった。
4戦目のロッテ戦では8回5失点。5戦目の楽天戦は6回71球で降板し、菊池の異変を感じさせた。
インナーマッスルの筋力が落ち、左肩に負担が掛かり、機能低下を起こしていたのだ。
それでも開幕から1カ月以上の間、左肩の異常を訴えなかったのは菊池なりのエースの矜持だった。
「立場が立場なので(抹消を)言い出そうとは思わなかった。数年前の自分なら……開幕前に無理ですといって投げていなかったか、もっと無理して大きな故障になって長期離脱していたか、どっちかでしょうね」
やや自嘲気味にも聞こえるが、エースだからこそ、日本一を目指すシーズンの開幕から序盤戦のマウンドにたつことを選んだし、1カ月を過ぎて離脱を申し出たのも覚悟があったからだった。
エースだからこそ、決断は自分で。
後になってわかったことだが、辻監督は本人に決断して欲しかったようだ。
菊池の状態が良くないことは、指揮官の目にも明らかだった。しかし、昨季エースとして投げ切った菊池にはプライドがある。
ケガならまだしも、その診断までは出ていない状況で、辻監督から「エースの登録抹消」という判断に踏み切るのは、いくらチームを預かる長とはいえ、簡単ではなかった。選手の気持ちを大事にする指揮官ならではの心遣いだ。
菊池が自ら登録抹消を申し出た背景には、シーズンをどうフィニッシュするかが念頭にあったからである。
昨季までなら、ピンチになればなるほど腕を振ったし、試合の流れを呼び込みたいときは意図して三振を狙いにいったものだが、今季はそれが難しい。その状況に、決断の時だと判断したのだ。