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<ドキュメント第1回キリンカップ>
「JAPAN CUP 1978」の衝撃 【後篇】
text by
加部究Kiwamu Kabe
photograph byPHOTO KISHIMOTO
posted2018/05/28 10:00
リーグ戦と変わらない真剣モード。
決勝戦の試合前、アルゼンチンに飛び立ったボルシア監督ラテックの代替で指揮をとるコーチのドゥリガルスキーが「何か一言ないか」と鈴木を促した。
「みんなにお願いがある。試合が終わったら、ユニフォームを交換しないで、全部記念にオレにくれないか」
「OK、わかった。さあ、行くぞ!」
みるみる選手たちの表情が引き締まっていく。
「まったくリーグ戦と変わらない真剣モードだ」
鈴木は、そう思った。
実際120分間に渡り、ピッチ上で繰り広げられた熱戦は、それまで日本で行われたどの試合と比べても、ケタ違いのレベルだった。テクニック、スピード、切り替え、駆け引き……。そこには両大陸の対照の妙が高度に彩られていた。
1-1、両者優勝。引き上げてくるボルシアの選手は一様に憮然としていたが、それでも全員が忘れずにユニフォームを持ち帰り、次々に鈴木に手渡した。そして両チームの主将が2つ用意された七宝焼きのカップを仲良く掲げると、ようやくいつもの快活な彼らに戻るのだった。
15試合で集まった観客は16万1500人、赤字は避けられなかったが、長沼は「最後でこれだけ盛り上がり、間違いなく開催した意義はあった」と語気を強めた。
日本のファンが、初めて本場の至高品を生で味わった夜だった。キリンカップサッカーの長い歴史は、そこから始まった。
▶ <ドキュメント第1回キリンカップ>「JAPAN CUP 1978」の衝撃 【前篇】
Number728号別冊付録初出 『日本サッカー「戦記」』(カンゼン刊)収録作品