ブンデス・フットボール紀行BACK NUMBER
謙虚で照れ屋な元ブンデス得点王。
マイアーはフランクフルトの神様。
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph byGetty Images
posted2018/05/19 16:30
長谷部誠のチームメートのアレクサンデル・マイアー。高原直泰とプレーした時期もある。
ゴールを決めた“フッスバルゴット”。
91分、フランクフルトはカウンターを発動しますが、相手の防御にあってボールが跳ね返されます。チームメイトが頭を抱えるなかボールが再び右サイドへ展開されて前へ進むと、後方からのっしのっしと大男が敵陣へ侵入していきました。
この大男は並走する仲間(ミヤト・ガチノビッチ)に対して、「おい、お前。ゴール中央へ行け」と手で示して敵を彼に引きつけさせ、自らは“美味しい”ファーサイドへ入り込んでノーマークとなり、右からのクロスを逆足の左で叩いて鮮やかにゴール! その瞬間、僕の周りにいた誰もが立ち上がり、抱き合い、絶叫し、文字通りスタジアムが"噴火"したのでした。
スタジアムアナウンスが声を枯らしながらコールします。
「背番号14! ア~レ~ックス!」
すると、スタンドの四方を埋めたフランクフルトサポーターが一斉に唱和しました。
「マイアー! フッスバルゴット!」
フッスバルゴットとは、ドイツ語で「サッカーの神様」という意味です。そう僕はこの日、コメルツバンク・アレナで神様を目撃したのです。
「いやー……」と頭をポリポリ。
興奮冷めやらぬスタンドを後にし、ミックスゾーンへと急ぎます。僕のお目当ては断然マイアーです。しかし当人、元来の恥ずかしがり屋ぶりを存分に発揮して何だか奥の方でモジモジしています。テレビの取材対応を終え、記者が待つ囲み取材の場に歩を進めると、思わずドイツ人記者から歓声が起こりました。
それを聞いた“マイアー神”は、「いやー(恥ずかしいよ)」とばかりにポリポリと頭を掻いています。先ほどのゴールシーンでの佇まいとのギャップに、思わずこちらも笑みを漏らしてしまいました。
「2-0になったときに、少し試合に出られるかなとは思っていたんだ。だけど、ピッチに立ってからはアドレナリンが出てしまって周りのことが分からなくなった。ゴールの後、僕の背中に誰が乗ってきたのかも分からなかったし(笑)」
フランクフルトで通算379試合に出場し、このゴールが137得点目。その偉大な実績に周囲は騒然としていましたが、本人だけが冷静沈着。この素朴な佇まいも、彼の魅力の一端なのかもしれません。