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羽生結弦の五輪連覇が火をつけた、
タカマツペア「自分たちも挑戦」。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAFLO
posted2018/05/18 07:00
4月29日のアジア選手権女子ダブルスでは準優勝に終わるも「意味のある負けだった」と前向きに語った。
金メダリストという立場に引いていた。
リオ五輪後からしばらくの間、高橋はある思いにさいなまれていたという。「自分のことを下に見すぎていた」のだ。
五輪4連覇の金字塔を打ち立てた女子レスリングの伊調馨や、個人総合連覇に加えて団体にも金メダルをもたらした男子体操の内村航平らには、チャンピオンの貫禄が備わっているように見えた。
「取ったもの(金メダル)の1つは同じなのに、そういう選手のオーラに比べて、自分はまだドーンとしたものを持っていない。そのことに気づきました。今までは自分が金メダリストであると思うことが恐れ多く、引きすぎていた感じで、金メダリストだという自信を持ってプレーできていなかった」
松友との話し合いを経て覚悟を決めた後は、この考えが変化した。
「金メダルを取った選手が目指すのは2連覇しかない。それならまずは自分が取った金メダルを誇りに思ってバドミントンをやろうと考えたんです」
今年に入ってから、その気持ちをさらに後押しする出来事があった。2月の平昌五輪だ。
自身も中高時代を過ごした宮城県仙台市出身の羽生結弦が、フィギュアスケート男子シングルで連覇を達成する姿をテレビで見て、高橋は大興奮した。涙が流れるほどの感動があった。
「あのとき、2連覇を目指せる人の中に自分たちもいるということに気づいたのです。与えられた人にしかできないことであり、自分たちはそれに挑戦できる。そう思うと、やるしかない、その場に立ちたいという気持ちになりました」
「東京五輪が終わったときに後悔しないように」
リオ五輪からの2年間は、金メダリストだからこその葛藤があった。東京五輪までの2年間にも、もしかしたらまた心が揺れ動くことがあるかもしれない。けれども今はもう、それをも乗り越える覚悟がある。
「決めたら私は突き進むタイプですから。迷いもありません」
すっかり吹っ切れたというさわやかな表情で高橋が打ち明けると、その横では松友がいつも通りの物静かな口調ながら、きっぱりとこう言った。
「リオ五輪で金メダルを取るためにずっとやってきて、本当にそこで金メダルを取れました。それが自分たちの第1章だと思います。あのときは、お世話になった人々が喜んでくれたのが本当にうれしかった。
泣いても笑ってもあと少ししかありません。東京五輪では終わったときに自分たちが後悔しないようにやっていきたい。第2章、がんばります」
世界でもひと握りの者だけが挑戦できる五輪連覇の道。黄金のチケットを手にする選ばれし2人の思いは、高い位置で重なっている。