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“つたない英語”が高木美帆を変えた。
オランダ人コーチが支えた銀メダル。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byTsutomu Kishimoto/JMPA
posted2018/02/13 11:30
コンマ2秒差で頂点に届かなかったとはいえ、オランダ最強の一角を崩したことに高木美帆の価値はある。
「美帆の結果は、誰もが誇りに思うべきものだ」
スタートでは珍しくフライングを犯した。しかし、こうも感じていたという。
「雑念も入っていたので、フライングを取ってもらったときに、“あ、落ち着けってことだな”ととらえて、気持ちをリセットできた」
あくまで冷静だった。
号砲。序盤から快調なラップを刻み、最初の300mを25秒50で入ると、その先の2周はラップの落ちを1秒程度にとどめる力強い滑り。ラスト1周こそタイムを落としたが、最後まで全力で滑り抜け、1分54秒55でゴールした。
レース後、ヨハンコーチと抱擁した高木美帆の目には涙が浮かんでいた。
「うれし涙というよりは悔し涙の方が強いんですけど、ここまで来ることができたという思いも、少しはあってほしいなと思います」
日頃から自分を俯瞰する目を持っている高木美帆らしい、客観的なコメントに、喜びをにじませた。
ヨハンコーチは、「美帆の結果は、誰もが誇りに思うべきものだ。私も誇らしい。ここは五輪。重圧の中で戦った」と称えた。
表彰式を終えて取材エリアに来た高木美帆はすでに先のレースを見据えていた。
「(1500mでは)ブスト選手の方が強かったと思うけど、この先の1000m、チームパシュートで勝てないとは決して思っていない。2種目、チャンスがあるのがありがたい。オランダ勢も同じ人間。自分たちもできる。チャレンジャーとして戦いたい」
銀で満足しない23歳は、力強く言った。