ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
比嘉大吾の15連続KOは最高に濃い。
世界戦を含めた記録は日本で唯一だ。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2018/02/05 17:00
比嘉大吾が強すぎてあっけなく終わったように見える防衛戦だったが、沖縄でフエンテスと戦うことに重圧がなかったわけがないのだ。
比嘉「お客さんが静まるのが嫌なんです」
野木丈司トレーナーが試合前に話していた言葉が頭をよぎった。
「比嘉はパワーばかりが注目されますが、本当は技術レベルが高い。次の試合では、そこのところを見せられたらと思っています」
比嘉は冷静にフエンテスの動きを見ながらジャブを差し込んだ。トレーナーの期待通りにクールさとテクニックを披露し始めながら、やはりいつまでもじっとはしていられなかった。
「いつも1ラウンドの最初は、しっかり相手を見ていけとセコンドから言われてるんです。でも、手を出さないと落ち着かない。待つのが嫌で、お客さんがシーンと静まるのが嫌なんです」
1分すぎ、フエンテスが右を放とうとすると、比嘉の右カウンターがドスンと炸裂した。これが効いた。タフなメキシカンがたちまちロープを背負った。
比嘉というボクサーはチャンスで絶対にためらわない。すかさず畳みかけると、最後は左のボディ、アッパー、そして右ストレートをボディに打ち込むコンビネーションでフィニッシュ。顔をしかめてダウンしたフエンテスは何とか立ち上がったが、あえなく10カウントとなった。
連続KO記録は、“濃さ”に違いがある。
これで連続KO記録は15まで伸び、比嘉が尊敬する沖縄の大先輩、元WBC世界スーパー・ライト級王者の浜田剛史氏らが持つ日本記録に並んだ。リングサイドでテレビ解説を務めた浜田氏は、後輩の15連続KO勝利を絶賛した。
「これは作られた記録じゃないですから。比嘉は強い相手と打ち合って勝ってきた。本物です。これからのボクシング界を引っ張っていきますね。沖縄からこういう選手が出てきたのはうれしい限りです」
実は連続KO勝利という記録は、浜田氏が指摘するように「作ることができる」記録だ。世界のレコードブックをひも解くと、ラマー・クラークという米国のヘビー級選手が1958年から'60年にかけて作った44連続KO勝利が“世界記録”ということになっている。
しかし、この選手は最大で一晩に6人もの選手と試合をするなど、たぶんにエキシビション的な試合が多く含まれていると推測せざるを得ない。クラークの狙いが記録だったのかは分からないが、少なくともまっとうな記録にカウントすべきものではないだろう。
反対に、世界的に有名なプエルトリコの3階級制覇王者、ウィルフレド・ゴメスの32連続KOは14度の世界戦を含むものであり、中身は格別に濃い。クラークの44とは大違いなのである。