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“鈴鹿に14万人しか来ない”なのか?
日本GPの意義、問題の根本を考える。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2017/10/21 11:30
数は減っても、鈴鹿のファンの熱量は高く、ドライバーのファンサービスも丁寧だ。問題はそれ以外のところにある。
日本人ドライバーはゼロ、ホンダの成績も……。
1987年に鈴鹿に日本GPを誘致したのは、ホンダだ。当時ウイリアムズと組んでいたホンダは、前年の'86年に初めてコンストラクターズ選手権を制する偉業を達成したが、国内でそれを知る者は少なかった。「日本でのF1の認知度を高めるには、日本人F1ドライバーとF1日本GPが必要だ」と痛感した桜井淑敏総監督の英断だった。
翌'87年、中嶋悟がロータスと契約、日本人初のフルタイムのF1ドライバーとして参戦。この様子をフジテレビが全戦中継した。そして、日本は空前のF1ブームを迎えた。
それから20数年。いまのF1に日本人ドライバーの姿はなく、日本では地上波での中継もなくなってしまった。
唯一、日本勢としてF1に参戦しているホンダの成績も芳しくない。
「われわれがきちんと勝利を狙えるようなポジションで戦っていれば、お客さんの入りも違っていただろう」と、ホンダの長谷川祐介総責任者も観客数が史上最低を更新した責任がホンダにもあると認めていた。
確かに日本人ドライバーと地上波での中継の消滅が、日本GPの観客数減少の大きな要因となっていることは否定できない。だが、それを「日本におけるF1人気の凋落」に直結させることは早計だろう。
「むしろ'06年までの観客数が異常だったんです」
ある鈴鹿サーキット関係者は言う。
「観客数を発表すると、メディアの皆さんは落胆した表情を見せるんですが、むしろ'06年までの観客数が異常だったんです」
'06年の日本GPの決勝レース日の観客数である16万1000人がいかにすごいか。それは例えば、同年中山競馬場で開催された競馬の有馬記念の入場者数が、名馬ディープインパクトの引退レースだったにもかかわらず、約11万人だったことでもわかる。
今年のプロ野球で最も多く観客を動員した阪神タイガースでも、1試合あたりの平均観客数は4万2148人。今年の日本GPの6万8000人を上回るスポーツイベントが、いったいどれだけ日本にあるだろうか。つまり、日本におけるF1の人気が低迷したのではなく、この状態が通常だと考えるべきではないか。