セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
本田圭佑の何が敬意を呼んだのか。
ミランが最後に主将を託した理由。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2017/05/30 17:00
今季、本田圭佑の存在感はほぼ皆無だった。それでも最後に敬意で送り出してもらえるのは、それまでの貢献を認められていたからこそなのだ。
敗戦後、本田はひとりロッカールームへ消えた。
後半の本田は、1本のシュートも打っていない。個人の結果より、崩壊しそうなチームとゲームをもちこたえさせることが、キャプテンの背負う責務だった。
終盤になると、今季初めてフル出場する本田を疲労が襲った。腰を落とし、両脚を引きずった。
それでもなお、90分に自身が蹴ったFKからカウンターのピンチを招くと、彼は自陣めがけて懸命に走った。ボールホルダーに身体を入れ、決定機を許さなかった。
“さよならゲーム”のフィナーレは、唐突で呆気なかった。
94分、ほぼ最後のプレーだった。カリアリのFKからこぼれ球をDFピサカーネが押し込むと、老朽化のため今季限りで使用が終了する「サンテーリア」の観客たちは歓喜のバカ騒ぎを始めた。
バカンス気分で、島の陽気に上半身裸になっていたミラニスタたちは沈黙した。
試合終了の笛が鳴ると、本来の主将であるMFモントリーボらミランの選手たちは、ベンチを出て数少ないながらも離島へ駆けつけてくれたサポーターへ労いと感謝の挨拶に向かった。
だが、キャプテンマークを巻いていた本田は、ピッチに背を向け、先を急ぐようにひとり、ロッカールームへと繋がる通路へ消えた。悔しさと怒りが背中に見えた。
本田とミランの大団円は、サルデーニャ島の空の下に消し飛んだのだった。
強心臓ぶりを遺憾なく発揮した空前絶後の入団会見。
'14年1月、空前絶後の入団会見がひと段落した後の囲み取材を今も覚えている。
10番をつけるプレッシャーについて質問を受けた本田は、まくし立てた。
「逆に記者の皆さんに聞きたい。ミランの10番をもらえる状況で、もらわない選択肢がありますか?」
憧れだった天才サビチェビッチがつけていた10番。
怪物ロナウドや奇才ロナウジーニョ、カカといった歴代のバロンドーラーすら背負うことのなかった10番。
世界中のサッカー選手が垂涎するミランの10番を取れるものなら、迷わずに自分のものにする。
こんなことを有言実行する日本人が出てきたのか。 本田の強心臓と図太さを、本当に頼もしく思った。