セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
本田圭佑の何が敬意を呼んだのか。
ミランが最後に主将を託した理由。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2017/05/30 17:00
今季、本田圭佑の存在感はほぼ皆無だった。それでも最後に敬意で送り出してもらえるのは、それまでの貢献を認められていたからこそなのだ。
本田には、明らかに意図的にボールが集められていた。
問題は早々に露見した。目的意識の薄いミランは試合開始後、カリアリから次々に決定機を作られ、慌てふためいた。17分には緩い守備陣を突かれ、MFジョアン・ペドロに先制点を決められた。
本田はややポジションを下げ、チームのバランスを取り、しばしば中央に絞る動きで攻撃を組み立てようとした。だが、初めていっしょにプレーする付け焼き刃の11人の呼吸が合うはずもない。30分にはFWスソが負傷し、FWオカンポスが急遽投入された。
ラストゲームを戦う本田には、明らかに意図的にボールが集められていた。
左サイドではDFバンジョーニが本田へパスを通そうとする。彼らがつける21番と10番は、かつて天才ピルロと名手セードルフの背中にあったことを思い出す。
1点を追う後半、モンテッラはFWラパドゥーラを入れ、3-5-2へ戦術を変更。最終戦黒星の失態を避けるべく、チームへ発破をかけた。
本田は2列目の左サイドに下がり、ゴールから遠ざかった。55分過ぎには右サイドに移り、攻撃に変化をつけようとしたが、ミランはチーム全体がただ漠然と、行き当たりばったりでプレーしていた。
“さよならゲーム”が乱雑な消耗戦に。
本来であれば、グラウンド内でチームの方向づけをするのはキャプテンマークを巻く者の役目のはずだ。この点で、監督モンテッラはカリアリ戦を甘く見ていた節がある。
63分のミランPK失敗を機に、ゲームは荒っぽいものになった。72分、ミランに再びPKが与えられると敵地「サンテーリア」はけたたましいブーイングに包まれた。
FWラパドゥーラが冷静にPKを決め、ミランは1-1の同点に追いついた。ラパドゥーラがPKを蹴る直前、彼に近づき、頭をポンポンと叩いて励ましたのは本田だった。
75分、ミランDFパレッタが2枚目の警告で退場すると、本田はキャプテンとして主審へ即座に抗議した。ジェスチャーを交えアピールしたが、判定が覆るはずもない。
最終節特有のお祭りムードは、どこかへ吹き飛んでいた。
誰もがハッピーな笑顔で終わるはずの“さよならゲーム”は、ファウルとイエローカードが飛び交い、敵意に満ちたブーイングが覆う、乱雑な消耗戦と化した。