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日本人で「一番ボールを奪える」男。
仙台・富田晋伍が忘れられない涙。
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2017/03/03 08:00
バイタルエリアで相手アタッカーを迎撃し、攻撃へ――。仙台の生命線であるカウンターは、富田がボールを奪った瞬間から発動する。
「昔は一匹狼だったが」と都並氏も目を細める成長。
「初めての経験だし、チャレンジしたいと思った。そうそうできるものでもないから」
年が明け、ようやく気持ちの整理がついた。渡邉監督からは「何かを変える必要はない。晋伍なりにやればいい」と声を掛けられたが、新キャプテンは変化を選んだ。
それまで一番後ろを走っていた練習中のランニングでは先頭を走り、試合中も自分のプレーに集中するだけでなく、周囲に気を配って声を掛ける。試合を重ねるごとに、左腕に巻くキャプテンマークも様になった。
「昔は一匹狼っぽい感じでキャプテンというタイプではなかったが、人間的に成長した。すぐに熱くなる選手だったのに、今は感情のコントロールができるようになっている」
これは東京ヴェルディユース、仙台の監督として富田を指導した都並敏史氏の言葉だ。昔から負けん気が強く、監督にも歯向かってきたやんちゃ坊主の成長に、恩師も目を細めていた。
渡邉監督から「キャプテンは、お前しかいない」。
しかし、富田自身の認識は違った。責任ある腕章を巻いて戦った2シーズンのチーム成績は、'15年が年間14位、'16年が年間12位に沈んだ。
「やっぱり、俺(の役割)ではないと思った。チームの結果が出なかったし、今季は断るつもりだった」
渡邉監督にもその思いを正直に伝えた。すると、すぐさま指揮官から言葉を返された。
「結果は今季、出すんだよ。キャプテンは、お前しかいない」
何も言えなかった。「信頼を寄せてもらっている」という思いが胸に強く響いた。その1週間後には、練習でまた先頭を走っていた。