猛牛のささやきBACK NUMBER
脱・金子専属で再び正捕手の座を。
オリ伊藤光、27歳で迎えた転換点。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/11/22 07:00
扇の要を任されれば、充実の表情を浮かべる。伊藤光にとっての本職はやはり、キャッチャーなのだ。
若月の台頭もあって、一塁やDHでの起用が増えた。
捕手として、「理想はすごく高くて、完璧に抑えたいという気持ちがある」と言う伊藤。しかしいつでも完璧にいくわけではなく、投手の調子だっていい時もあれば悪い時もある。
「だからといって、悪かったら悪いまま負けるというのは違うと思う。シーズン通して言えばよくない時の方が多いと思うので、そこにどうやって対応していくか。そのためにはピッチャーをしっかり見てあげることが、今の僕には必要なことだと思っています」
苦しいシーズンを終えた今、冷静に自身を見つめ直している。
2013年には137試合でマスクを被り、'14年には136試合で被って福岡ソフトバンクと熾烈な優勝争いを繰り広げた。昨年も104試合に出場した選手会長は、今年、二度の二軍落ちを味わい、80試合の出場にとどまった。7月以降は、リード面を評価された20歳(当時)の若月健矢がほとんどの試合でスタメンマスクを被り、伊藤は打撃を買われて一塁手やDHでの出場が増えていった。
“金子専属”となりつつあった伊藤の必死さ。
伊藤が先発マスクを被るのは、エース金子千尋の登板日だけとなっていた。その分、その日にかける思いは強烈だった。7月28日の千葉ロッテ戦では、センターからのややそれたバックホームを捕球した伊藤が、身を投げ出してランナーに飛びつき、ホームを死守。必死さがひしひしと伝わってきた。1点差で勝利を収めたその試合後、伊藤は興奮冷めやらぬ様子でこう語った。
「必死です。もうそれしかないです。出る試合は全部勝つつもりだし、勝たないといけないと思っている。自分の立場をしっかりわかっているので。若月もすごくいいリードをしていますし、そこはもう、負けられないというか、自分は自分でしっかりやろうと思っています。今年これだけ負けて、悔しい思いをして、スタメンを外れることも多くなって……。このまま終わるわけにはいかない、という気持ちは常に持っています」
しかし、ホーム最終戦となった9月29日の東北楽天戦は、今季最後の金子の登板日だったが、初めて若月が先発マスクを被った。
鈴木郁洋バッテリーコーチは、「大きな理由はないけど、まあ来季に向けて、今日はこういう形でやったということ。今後、伊藤を金子の専属にするつもりもないし、若月にすると決めたつもりもないし、そこは競争してもらってやっていくこと」と語った。