野球場に散らばった余談としてBACK NUMBER
交錯した野球人生がまた1つに……。
新井貴浩と赤松真人、広島での邂逅。
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byHideki Sugiyama
posted2016/09/23 11:30
新井を知る誰しもが言うのは、その「人を思いやる気持ちの強さ」。阪神から広島への異例の復帰移籍も、新井だからこそ、である。
一度はすれ違った2人が歓喜を分かち合った。
心の張りをエネルギーに変えて、いまがある。
赤松には印象に残っている光景がある。
広島に移籍直後の'08年3月、オープン戦で対戦したときだ。試合前に阪神新井が歩み寄ってきた。
「ごめんな。何と言っていいか分からんけど……」と声を掛けられたのだという。
あれから歳月がたち、不思議な縁は交錯する。2人は同じユニホームを着て頂点に達した。
赤松は「このチームで優勝したい気持ちがあった」と笑う。
FA移籍という決断で、他者の人生も大きく揺れ動く。とてつもない重みもまた、新井が背負ってきたものだろう。
「間合いが全然、違う」と恩師は目を細める。
'16年9月10日、優勝を確信した東京ドームは赤く揺れた。
この1年間、ポイントゲッターとして貢献し、39歳にして見違える躍動ぶりだ。ベテランの「変化」に気づいていた人は敵陣にいた。かつて広島で長らく指導し、新井にも手ほどきした、巨人の内田順三打撃コーチだ。プロ47年目、69歳の名伯楽は感心する。
「間合いが全然、違う。ゆったり構えて右方向にも大きいのを打てるようになっている。アイツがさ、本塁打王をとったときくらいかな。『大きいのばかり狙うんじゃなく、打率も考えて逆方向にも打てるようになれ』と言ったのを覚えてるよ。それがさ、いまは、できているんだよね」
酸いも甘いも味わい尽くし、円熟の域に達した。その道のりを思い、内田は冗談交じりに付け加えた。
「まるで、ツキものが全部、取れたみたいだよな」
広島復帰という人生の大勝負だった。無数の余話には、さまざまなものを背負いながらも競争を勝ち抜く男の姿があった。