リオ五輪PRESSBACK NUMBER
奥原希望の実家で見た印象的な居間。
“思考力”が編み出した銅メダル。
text by
鈴木快美Yoshimi Suzuki
photograph byJMPA
posted2016/08/22 16:00
奥原希望は、山口茜との日本人対決に勝利してベスト4に進んだ。これまでの世界ランクの最高位は3位。4年後、25歳で迎える東京五輪は金を目指している。
奥原「家にいると緊張感がありましたね」
ノータッチで終わったり、ネットに羽根をひっかけようものなら、「本気でやってんのか!」、「死ぬ気でやれ!」という圭永さんの声が飛び、容赦なくシャトルを連打された。日常生活でも、靴を揃えず家に上がろうものなら、雷を落とされる。「家にいると緊張感がありましたね」(奥原)。
礼儀正しい大人になってほしい、さらに強くなりたい奥原の願いを叶えてやりたいという思いで、圭永さんも必死だったのだ。
こんな強い父に対して、奥原は「負けたくない。いつか見返してやる」と思っていた。
11歳の娘の負けん気に震え、2人は本気になった。
小6のときには、こんなエピソードもある。ある夜奥原の練習態度に怒り狂った圭永さんは、「あんな態度だったらバドミントンなんてやめちまえ。やる気があるなら見せてみろ」と怒鳴りつけた。
父がこう言い出したら、気持ちを証明しない限り、許されることはない。おめおめと部屋へ引っ込むのも悔しい奥原は考えた。
「きついことをやれば、やる気が証明できるって思ったんです。それで走るよりきつい二重跳びをしようって」
そう決めた奥原は、吹き抜けのある玄関に行って縄跳びを始めた。その様子を横目で見ていた圭永さんだが、徐々に娘が本気であることを知る。
娘は20分、30分経っても跳ぶことを止めようとしない。ハッハッハッと荒い息が響き、床は汗にまみれている。さすがに40分以上が経過して「やめろ」と言ったとき、奥原は一瞬で脱力して、その場から動けなかった。
じつはこのとき、圭永さんは11歳の娘の負けん気の強さに心が震えていた。そして目標を世界の頂点に切り替えることを決意する。
「希望がオリンピックで金メダルを獲りたいなら、全面的に支援してやろうって思ったんですよ。それまでは好きなスキーを優先することもあったんですが、すっぱり辞めました」