リオ五輪PRESSBACK NUMBER
金藤理絵、金メダル直前にあった危機。
コーチが出した定石破りの指示とは?
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byGetty Images
posted2016/08/12 15:30
世界ランキング1位の実力を最後に発揮した金藤。五輪の一発勝負ならではの怖さを味わいながらも勝者となった。
当日のウォーミングアップの強度を上げたが……。
平泳ぎは技術系の種目で一度狂うと、他種目以上に立て直すのが難しい種目である。加藤はこう続ける。
「一度スカスカになると、戻らなくなることもあるんですよね」
下手をすれば、致命傷となりかねなかった。そこで加藤は1つの手を打つ。決勝当日のウォーミングアップの仕方を変えたのである。
「試合のためのウォーミングアップではなく、強化トレーニングというくらいやりました」
レース当日、ふだんは試合前までに1000m程度を泳ぐというが、この日は大幅に伸ばした。
「サブプールで2000m、こちらに来て1000mです」
体に負荷をかけてみたが、状態は上向かなかった。刻一刻とレースは近づく。
ウォーミングアップの締めくくりに、50mを4本泳いだ。最初は丁寧な泳ぎを心がけつつ強度を上げていき、最後はレースの想定で飛び込んでの50mで締めくくろうとした。
「あと2本、増やそう。思い切り、スピードを出そう」
それでも金藤の状態は上がらない。
「ぜんぜん上げられないんです。最後のレースを想定した50mのタイムは、1秒も遅かった。50mなのに1秒も遅いんですよ。『わーっ』と思いましたね」
50mで1秒も遅ければ、200mでは致命的な差になってしまう。到底、勝負に行ける状態にはなかった。アップで泳ぐ距離を1000mから3000mに変えて、良くなるはずだったのに変わらない。
加藤は、決断した。
「あと2本、増やそう。レースのことを考えないで、思い切り、スピードを出そう」
加藤の言葉通り、金藤はプラス2本を泳いだ。すると、劇的な変化が見られた。悩まされていたキックの足が、ようやくかかり始めたのだ。