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本田圭佑とミラン、最後の“捨て身”。
コッパ決勝でファンを沸かせた変貌。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2016/05/24 07:00
コッパイタリア決勝後、帰国の際には「ひどかった」とシーズンを振り返った本田圭佑。ミランには身売りの噂もあるが……。
ミランの泣き所は、フィニッシュを託すFW。
0-0のまま後半も終了したとき、南側ゴール裏スタンドから大声援が沸いた。
「ミラン! ミラン! ミラン!!」
延長が始まるや否や、右サイドからドリブルで切り込み、CKを獲得した本田の顔は“まだまだいける”と言わんばかりに上気していた。若い選手たちを中心とした、まったく新しいミランの4-2-3-1を支えていたのは、間違いなく本田だった。
ただし、ミランには泣きどころがあった。フィニッシュを託せる正確なシューターの不在だ。
ベンチの控え選手たちの差が、土壇場で勝負を分けた。
110分目に鮮やかな決勝ゴールを叩きこんだのは、2分前に途中出場したばかりのユベントスFWモラタだった。一気の高速カウンターからアシストを決めたのも、後半から投入されたMFクアドラドだった。
白黒に染まる北側ゴール裏スタンドはにわかに活気づき、反対に南側スタンドは水を打ったように静まり返った。
128分間走りきり、両足に力が入らない状態。
反撃を試みた本田は、116分にユーベのPA正面からドリブルを仕掛けたが、足がもつれて倒れた。それでもミランは、ロスタイムを含めた合計128分間を最後まで足掻き通した。
そして、試合終了の笛をロッキ主審が夜空に吹いた。
グラウンドの中盤辺りにいた本田は、左手を目に当て、ほんの少しだけ頭を抱えた。両手を膝につき、数秒間うなだれた後、放心したようにノロノロとベンチへ戻った。
ベンチを出て、南側ゴール裏席のサポーターへ挨拶に出向くときも、疲労困憊で両足に力がまるで入らない。
チームメイトから1人離れ、腰に手を当てた本田は表彰式を待つ間、満員のオリンピコをゆっくりと見渡した。表情にあった憔悴が薄れ、本田は努めて無表情を装っているように見えた。
仁王立ちの本田は、喝采と紙吹雪に包まれた勝者たちを見届けるとロッカールームへ向かった。