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清武弘嗣に1年間で起こったこと。
10番、怪我、そして――降格。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byGetty Images
posted2016/04/30 08:30
欧州の舞台では一際小さくみえる清武だが、周囲からの信頼と評価は誰よりも大きかった。
清武「オレらが何かを遺さないといけない」
そして、こうも付け加えた。
「ニュルンベルクのときは最終戦で降格が決まる状況だったから、そういうことは出来なかった。でも今なら出来るし、今からやれば間に合うかもしれない。オレらが何かを遺さないといけない。そんな気持ちだったんですよね」
清武は現時点で、自身の去就について言及していない。ただ、来季ハノーファーでプレーする可能性はほとんどないだろう。
「2部に落ちても残留するように、キヨタケに説得を試みる」
バーダーCEOはそう話しているが、本音とはほど遠い。サポーターやスポンサーからの反発を避けるための発言に過ぎない。
降格が決まる前から、CEOは保身に走っていた。
そもそも、クラブが2部に落ちた場合、そのシーズンの5月31日までに650万ユーロを支払うクラブが現れれば自由に移籍出来るという条項が、清武の契約に記されているというのは公然の事実となっている。
簡単には外部にもれないはずのそんな情報が、2月の時点でメディアにリークされていた。そしてバーダーCEOは2月末に、その事実をはっきりと認めてしまった。さらに、彼はこの時点で2部に降格した際のプランをメディアに発信していた。まだ、1部残留のチャンスは十分にある時期だったのに……。
降格が正式に決まる2カ月も前から、チームのなかで最も高額の移籍金がつく選手を、2部に落ちたときには売却の意思があるとアピールしていたわけだ。それはクラブ幹部による保身である。
清武には、かつて味わった後悔を繰り返したくないという想いがあり、チームの中心選手としての自覚がある。
タフになったし、成長もしたけれど、この結末には胸を張れない。
それでも決して投げ出さないという意志が、自分はチームの中心だという誇りが、彼を今日も突き動かしているのだ。