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清武弘嗣に1年間で起こったこと。
10番、怪我、そして――降格。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byGetty Images
posted2016/04/30 08:30
欧州の舞台では一際小さくみえる清武だが、周囲からの信頼と評価は誰よりも大きかった。
若手の登用で状態は上向いたが、時すでに遅し。
チームが勝つためには、自分の好きではないプレーも、得意とするプレーも全力でやるだけ。そこに、かつての清武との大きな違いがある。
「ドイツに来た当時は、確かに、自分のためにやっていましたよね。自分がどうやって活躍するかとか、自分がどうやって点を獲るかとか……。でも今は、これだけチームから信頼されているので。だから、チームが勝てなかったら自分の責任だしという思いでやっていましたね」
ハノーファーでは3試合前から、それまでU-19で指揮をとっていたシュテンデルがトップチームを率いることになった。新監督は来季を見据え、セカンドチームからかつての自分の教え子たちを次々とトップチームに引き上げた。そして、3位ヘルタ・ベルリン、5位ボルシアMG、9位インゴルシュタットと、格上相手に1勝2分けの成績を残している。
「失われた時間はもう戻ってこないんだ」
ドイツ代表でもあるGKのツィーラーがそう嘆いたのも無理はない。昨年末にフロンツェック監督が去ってからの監督選びで、クラブは致命的なミスを犯した。そして、シャーフ前監督のもとで成績が悪化しただけでなく、チームから不協和音が“響き渡っていた”のに、手を打つのが遅過ぎた。
来季のために、今やっている自分が伝える。
でも、清武は悲嘆にくれているわけではなかった。
4月23日、2-2の引き分けで終わったインゴルシュタット戦の試合後――。
「すぐに監督と話しに行ったんですよ。後半になって改善されたとはいえ、もっと落ち着いてプレーするべきだったから。ノア(19歳のFWザーレンレン・バゼー)やバルメ(20歳のFWスレイマニ)は前に行ける迫力があって、すごく良い選手。でも、シュートにつながる場面でもっと落ち着いていたら、さらにゴールを奪えていたと思うから。チームとして、どうやったら点が獲れるかとか、どうやったらさらに良い攻撃が出来るか、自分が考えていることを伝えたんです」
この試合に引き分けたことで、降格はほぼ確実になっていた。にもかかわらず、監督のもとへ行き、意見交換をしたのは何故だったのだろうか。
「来季、みんな(去就)がどうなるかわからないですけど、若手が中心のチームになるでしょうね。若い選手たちがこうやって試合に出られているというのは、ハノーファーにとってはすごく大きなチャンスなわけですよ。
どうしたら良くなっていくのかは、今ここでやっている人間が伝えなきゃいけないから。1年で1部に復帰したいんだったら、『ここで引き分けたら、もう1部に上がれない』というような状況で味わうのと同じような緊張感を持って闘わないと。1年なんて、本当にあっという間に終っちゃうから。今季も一瞬で終わったし。そういうことを今からでも始めないと、手遅れになりますもん」