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清武弘嗣に1年間で起こったこと。
10番、怪我、そして――降格。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byGetty Images
posted2016/04/30 08:30
欧州の舞台では一際小さくみえる清武だが、周囲からの信頼と評価は誰よりも大きかった。
「今でもまぁ、FKはあまり好きじゃないッスよ」
ハノーファーに来てからの2年間で、清武の存在感は大きく増した。では、何が変わったのだろうか。
象徴的な場面があった。
2月27日、2016年初勝利を挙げることになるシュツットガルト戦前のウォーミングアップでのことだ。チームで行う全てのメニューが終わり、スタメンの選手たちが順番に引き上げていくなか、清武はボールを拾い、黙々とFKの練習をしていた。
セレッソ大阪時代にはプレースキッカーを務めていたわけではない。それゆえ、ドイツに来た当時には「セットプレーを評価されても……」ともらしていた。
でも、今は違う。そして、シュツットガルト戦では清武のFKから2つのゴールが生まれ、2-1で勝利をつかんだ。
「今でもまぁ、FKはあまり好きじゃないッスよ。でも、ゴール前だったら決める自信も出てきたかな。FKの蹴り方も少しずつ、この4年間で覚えてきたし」
それでいて、自分の得意とするプレーには磨きがかかっている。
パスを受けてからマークを外す、という能力。
チームで右サイドからのスローインを担当するのはサイドバックの酒井宏樹だ。最近、清武は酒井にこう伝えている。
「オレが絶対に受けに行くから、それまで待っとけ!」
その理由を清武はこう説く。
「スローインって、けっこうチャンスでしょ? だからこそ、そこでボールを失うのはもったいないから」
スローインの際には、フィジカルが強く、キープ力のあるフォワードの選手が受けに行くのが一般的だ。だが、ハノーファーでは清武が受けに行く場面が目立つ。最近は、そこでボールを失うこともほとんどない。彼の場合は、キープ力があるというより、ボールを受けてからディフェンダーのマークを外す能力が高い。パスを受ける前にマークを外す能力を持つ日本人選手は多いが、パスを受けてからマークを外す能力では、清武は日本人のなかでもトップクラスだ。
「いかにしてマークをはがすのかを先に考えてからボールを受けているので、余裕があるんですよね。キープすることはあまり考えていないです。宏樹に落とすか、1タッチで他に出すか、それとも(相手の)逆に行って外すか。バリエーション的にはその3つかな」
本人は、サラっといってのける。