スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
ネビルの悪夢から醒めたバレンシア。
新米監督と歩んだ4カ月の転落人生。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2016/04/14 10:40
背後の文字はウサイン・ボルトの「不可能なことなど存在しない」という言葉。なんとも皮肉である。
後任は地味ながら、遥かに「妥当」な監督。
「これは全バレンシアニスモの勝利だ。選手たち、クラブ、ファンがみな素晴らしかった。選手たちは10点、ファンは11点だ」
冒頭のセビージャ戦、就任から2戦目で初勝利を挙げたパコ・アジェスタラン新監督は、そう言って選手たちの努力とファンの後押しを称えていた。
2月半ばにネビルのアシスタントとしてスタッフ入りしたアジェスタランは、ラファ・ベニテスやキケ・サンチェス・フローレス、ウナイ・エメリらの下でアシスタントやフィジカルコーチを務めてきた人物だ。監督としてはメキシコ、イスラエルのクラブで率いた経験しかないが、コーチとしてはリバプール、ベンフィカなどのビッグクラブで指導しており、何よりバレンシアで働くのは今回が3度目となるため、クラブのことは熟知している。
要するに知名度では劣るものの、前任者より遥かに妥当な条件を備えた指揮官である。
そんな新監督の指揮下、バレンシアは強豪セビージャ相手に貴重な勝利を手にして連敗を4で止めると共に、降格圏との差を勝ち点9まで広げることができた。残り6試合の中にはバルサ、ビジャレアル、レアル・マドリーなど上位陣との対戦が多いだけに、この1勝は非常に大きい。
CLもELもない来季は主力離脱が避けられず。
とはいえ、元々ヌーノの指揮下ではCLでのグループリーグ突破と来季のCL出場権獲得を現実的な目標としていたチームである。それが、迫りつつあった降格の恐怖を遠ざけただけで大喜びする姿を目の当たりにすると、何とも言い難い寂しさを感じてしまう。
この4シーズンで10人目の監督となったアジェスタランとの契約は今季終了まで。オフには新監督選びとチーム大改造を行い、再びゼロからスタートすることになる。
地元紙スーペルデポルテが新監督候補について行ったアンケートでは、一番人気がマヌエル・ペジェグリーニ、2位にパコ・ヘメスがつけているが、いずれも本人にその気がなければ実現しない。
それ以上に来季はCL、ELの出場権を逃したことで年間予算の削減が避けられず、契約満了を迎えるソフィアン・フェグーリや、引く手数多のアンドレ・ゴメスら主力数人を失うことが確実視されている。
この調子だと来季もまた我慢のシーズンとなりそうなだけに、少なくともリム氏にネビル招聘のような“ご乱心”が生じないことを願うばかりだ。