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小林悠が左手薬指にキスをするまで。
家族とともに歩んだ復活への1年間。

posted2016/03/08 10:40

 
小林悠が左手薬指にキスをするまで。家族とともに歩んだ復活への1年間。<Number Web> photograph by J.LEAGUE PHOTOS

小林悠は何度もチャンスをケガでふいにしてきた。それでも、ハリルホジッチは彼を呼んだ。復活にはまだ遅くない。

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二宮寿朗

二宮寿朗Toshio Ninomiya

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 蝶のように舞い、蜂のように刺す。

 あのゴールを見た瞬間、偉大なるボクサー、モハメド・アリの代名詞ともなった有名なフレーズがパッと頭に浮かんだ。

 2月27日、サンフレッチェ広島vs.川崎フロンターレの開幕マッチ。

 スコアレスで迎えた後半39分、カウンターから左サイドの中野嘉大が仕掛けると、森本貴幸が勢いよくゴール前に飛び込んでくる。その動きに引きつけられる相手に対し、小林悠はひらひらとゴール中央でノーマークになり、グラウンダーのクロスを左足でバチーンと合わせた。

 昨年は不運なケガ続きで、不本意なシーズンを送った。3年連続の開幕弾は巻き返しを図るうえでも特別な意味合いがあった。

ブログにつづった運命への苛立ち。

 忘れもしない。

 約1年前のこと。ファーストステージ第3節モンテディオ山形戦の後半、守備に戻ろうとした際に右足を痛めてピッチに倒れ込んだ。担架に乗った彼は顔を手にうずめて、ピッチから去っていった。

 診断は右ハムストリングの肉離れ。

 ハリルジャパン初陣の代表メンバーに選ばれながらも、無念の代表辞退となった。前年11月にも代表合宿中に負傷して辞退したばかりだった。チャンスが来ると、ケガがつきまとう。どれほどの失意だったか――。

 ケガから2日後、彼は自身のブログにこうつづった。

「誰かが言っていました。

『神様は乗り越えられる人にしか試練を与えないんだよ』と。

神様に言いたい。

何回目だよ!

そんな俺強くないわ!笑」

 感情を内に秘めるタイプだと彼を眺めていただけに、気持ちを吐き出すような書き方が悔しさを表していた。それでも必死に前を向こうとする意志が、「笑」にこめられているようにも感じた。

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