One story of the fieldBACK NUMBER
阪神タイガースは革命を起こせるか?
圧倒的カリスマ金本監督に託された願い。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byNanae Suzuki
posted2016/01/04 10:50
秋季キャンプで選手と共に汗を流す、阪神タイガースの金本第33代監督。
「攻撃の補強はしない。チャンスだぞ!」
じつは、将軍は実績のない若者たちの前で宣言したそうです。
「攻撃の補強はしない。チャンスだぞ!」
パワー不足というレッテルを自ら貼って、攻撃に自信をなくしていたヤマトという若者にはこう言って、背中を押したそうです。
「お前には内角打ちという長所がある。思い切り、引っ張っていいんだ」
結果が出ず、クビすら覚悟していた32歳のオカザキに対しては、公の場であえて、こう評価し、技術的なアドバイスをしました。
「彼には一生懸命やる姿勢がある。チャンスはある」
今、兵士の中からは、こんな声が聞こえてきます。
「勝つことに集中する。そういう人の下で戦いたい。戦う集団になれる気がします」
戦いの場に立つ者は、そのリーダーが内を向いているのか、外を見ているのか。ついていくべきか。腹を割れるか。その“器”を肌で感じ取ります。今、兵士たちは明らかな空気の変化を感じているようです。
何かを変えるとは、まず意識を変えること。カネモト将軍の掲げる「変革」は1人、1人の心の中から始まっていたようです。
きっと……想像もしないことをやってくれる。
本当の戦いが始まるまで、あと100日もありません。今、将軍の胸の内はどうでしょうか。
「正直、戦力としては苦しいな。覚悟はしているよ」
近くにいる人には覚悟の程を明かしています。明るく、豪快な人柄とは対照的に、心の中には不安も抱えているようです。
王様は言います。
「こちらはどうしても無難、無難に発想する。ただ、今度の人は、こちらが想像しないことをやってくれそうな気がしますな」
見る側、期待する側は勝手なものですね。すべてを託され、期待される。強者とは常にそういう宿命にあるようです。
何かが変わる。
新しい年への「期待感」の正体は、実力ある誰かが加わったという目に見えるものではなく、ある種、予感めいたものなのかもしれません。タイガース王国にとって最大の補強であり、最強の新戦力は、カネモト将軍その人のようです。