野球クロスロードBACK NUMBER
内川不在に選手会長・松田宣浩が燃!
盤石SBを象徴する2人のリーダー像。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNanae Suzuki
posted2015/10/27 10:40
初戦でホームランを放ち、ソフトバンクに勢いを呼び込んだ松田宣浩。
松田からの副会長就任打診を内川が断った理由。
内川自身も、抜群のキャプテンシーを誇っていた小久保裕紀の、妥協せず野球に取り組む姿勢に触れては「小久保さんのような選手になりたい」と背中を追ってきた。打てなくても前を向き、全力疾走を怠らず、故障を抱えても愚痴ひとつこぼさず試合に出続けた。
内川の姿はチームメートにも浸透した。だからこそ、松田から「副会長になってくれませんか?」と協力を打診されたこともあった。
しかし内川は、その申し出を断った。
「マッチが苦しいだろうな、と思ったんです。ああ見えて気を遣う人間だから、僕とか年上の選手に言いたいことを言えなくなるかもしれない。僕自身、副会長になったら『それは違うやろ!』と直接、意見してしまいそうな気がしたんで断りました」
副会長を受けようと思えば受けられたが、内川はこの時、チームを俯瞰して見る「静」に徹したのだ。
「マッチ、悪いけど後ろから見させてもらうわ。でも、困ったときにはいつでも相談に乗るし、協力もするから」
松田が泣きついてこない人間だと内川は分かっていた。チームが窮地に陥った時には、内川が自ら動くべきなのだ、と。
内川が「みんなのために」動いた選手ミーティング。
内川が主将になる以前、「みんなのために」と動いたことがある。昨年の9月。連敗が続き2位・オリックスとの差が肉薄していた頃、選手だけでのミーティングを開いた。
発起人は五十嵐亮太と細川亨だったが、内川は率先して議事進行を買って出た。ベテラン、中堅、若手、分け隔てなく意見を求める。口ごもる選手には「はっきり言っていいから」と本音を促そうと務めた。
松田は「ミーティングは多くやらないほうがいい」という考えの持ち主だ。企業と同じく、何度も行うことで組織のマンネリ化が進む。大事なはずのミーティングが形骸化してしまい、本質を認識することができなくなる恐れがあるからだ。
そんな松田が「あのタイミングがベストだった」と選手ミーティングに手応えを掴んだ。
「内川さんたちが先頭に立ってくれたので、僕はもうなんも言わなくて大丈夫だった。話し合いもどんどん進んだし、チーム全体のモヤモヤした気持ちがなくなった」
ふたりの阿吽の呼吸がもたらしたミーティングが大きな契機となり、ソフトバンクは最終戦でオリックスを寄り切り、日本一まで一気に駆け上がった。