野球クロスロードBACK NUMBER
チームの重圧を全部背負って打つ!
4番の主将・内川聖一が目覚めた夜。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNanae Suzuki
posted2015/10/19 15:20
CSに臨むにあたり「レギュラーシーズンの悔しさを払拭する」と明言していた内川。
ソフトバンクの「重圧」を全部引き受けた男。
レギュラーシーズンでは打率2割8分4厘。右打者で最長となる8年連続3割の偉業には届かなかった。82打点、得点圏打率2割9分9厘という数字も、4番としては物足りないのかもしれない。だからこそ内川は、「シーズン中はチームに迷惑をかけていたので、結果を残せて嬉しい」と、CSの結果で溜飲を下げることができたのだろう。
極端な物言いを承知で述べれば、今季のソフトバンクの選手において、「重圧」という言葉は内川のためにあるようなものだった。
今季から秋山幸二、小久保裕紀に続き三代目のキャプテンに任命され、4番も務めることとなった。工藤公康監督の「野球に取り組む姿勢など総合的に判断して、お前に決めた」という言葉に胸を打たれ、「そこまで言っていただけるのならやるしかない」と、内川は覚悟を決めたのである。
しかし、その重責は、結果という明確な形となって内川を苦しめた。
チームの勝利か自分の成績か?
去年まで3割を打って当たり前だと言われていた男のバットは、交流戦が始まるあたりまで2割6分前後と湿ったまま。当時の心境を内川はこんなふうに語っている。
「キャプテンとして『チームが勝てばいい』という想いと、4番として『自分が打たなきゃいけない』という想い。そのバランスをどう保っていくかがすごく難しかったです」
モチベーションをどこに据えていいのか?
悩める枢軸が決心を固めたのは、交流戦が始まろうとしていた頃。同じ大分県出身の内野守備走塁コーチ、鳥越裕介から食事に誘われたことが契機となった。
「今日はな、もうひとり呼んどるから」
もうひとりとは、小久保だった。「次のキャプテンはお前だ」と、以前からチームの中心になることを望んでいた小久保に、内川はその場で背中を強く押されたという。
「キャプテンと4番をやってすんなり結果が出てしまったら、お前はそれまでの選手やで。結果が出ていないってことは、まだ伸びる要素があるってことや。だから、周りから『ゲッツーが多い』とか言われても下を向いたらあかんで。凡打でもファーストまで一生懸命に駆け抜けたり、お前のそういう姿は他の選手のお手本になる。俺は結果を出すことより、そのほうが大切だと思うんだよ」
小久保の現役時代がそうだったように、内川も常にその姿勢を体現しようと務めている。内川が想いを率直に吐き出す。
「新しい立場を与えられた自分に対して『俺ってやっぱりダメだな、弱い人間だな……』って思っていたんです。結果が出せない自分がすごく嫌で。でも、小久保さんからそう言われることで、『俺がやってきていることは間違っていないんだ』と思えましたし、気分的にもすごく楽にはなりましたね」