岩渕健輔、ラグビーW杯と東京五輪のためにBACK NUMBER
ラグビー代表の“国籍問題”を語る。
岩渕GM「アイデンティティーは哲学」。
text by
岩渕健輔Kensuke Iwabuchi
photograph byAFLO
posted2015/09/11 16:30
日本代表でキャプテンを務めるリーチマイケル。スーパーラグビーの強豪チーフスに所属する。フランカーとして果敢な飛び出しを世界でも見せて欲しい。
代表選手には、チームへの献身が求められる。
たとえばエディー・ジョーンズが行なっているトレーニングは、世界トップクラスに過酷で厳しいものです。彼が掲げている攻撃的ラグビーを実践していくのは、外国籍の選手にとっても並大抵のことではありません。他のチームが掲げているラグビーよりも、精神・肉体の両面ではるかに大きな負担や献身性が求められるからです。
厳しい要求は、グラウンドを離れたところでも適用されます。日本代表では、試合に参加できない選手は、他の選手のために「サポート役」に徹するという不文律があります。試合が始まる前にスタジアムに入り、練習用の機器の搬入や準備を行い、試合中には試合がスムーズに進むようにサポート役に徹する、そして試合が終われば、今度は片付けや整理を担当します。
外国籍の選手であれ、一軍でスポットライトを浴びているような中心選手であれ、この方針には誰もが必ず従わなければなりません。それがラグビーの日本代表チームの文化だからです。
メンバー全員が、かけがえのない同志。
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他方、日本代表チームは、もう一つの重要な「価値」も体現しています。それは育成のシステムまで含めた、日本ラグビー界そのものです。
分かりやすいのは、リーチマイケル選手の例でしょう。
リーチマイケル選手は生まれこそニュージーランドですが、15歳の時に留学生として来日。以降は高校、大学、そして社会人ラグビーと、日本ラグビーの強化システムの中でスキルとテクニックを磨き、ついにはスーパーラグビーのチームに移籍するまでになりました。2年前には帰化を果たし、戸籍上も日本人となりましたが、キャリアからもわかるように彼は日本の強化育成システムの中で育ったという意味においても、日本ラグビーが誇る選手なのです。
日本代表でプレーする道を選んだ外国籍の選手や帰化をした選手は、日本代表にすべてを賭けています。そこに国籍は関係ありません。根底に流れているのは、私たちと寸分違わぬ日本代表にかける熱い思いだけです。これらの選手は、他の代表入りの話を断って日本代表に加わっただけに、日本という国や日本の人々、そして日本ラグビーに対する思い入れの強さは、日本で生まれ育った選手を上回るのではないかとさえ思えることもしばしばあります。
私はW杯に臨むチームのメンバー全員に強い誇りを感じますし、かけがえのない同志として、日本と日本のラグビーのために共に戦うつもりです。このような状況の中で迎える大会であればこそ、皆さんにも是非、桜のジャージに身を包んだ選手たちに、熱い声援を送っていただければ幸いです。
(取材・構成=田邊雅之)