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“坂口征二の息子”の宿命を越えて。
42歳の坂口征夫がDDTで叶えた夢。 

text by

橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

PROFILE

photograph byEssei Hara

posted2015/08/29 10:40

“坂口征二の息子”の宿命を越えて。42歳の坂口征夫がDDTで叶えた夢。<Number Web> photograph by Essei Hara

この日のチケットは前売りソールドアウト。満員御礼となった両国国技館で、坂口は“アニキ”と慕う酒呑童子のリーダー・KUDOを破りチャンピオンベルトを奪取した。

「ここでは下の人間」と筋を通した。

 自分を「拾ってくれた」社長の高木をボスと呼び、所属するユニット・酒呑童子のリーダー・KUDOを兄貴と呼ぶ坂口。格闘技ジム『坂口道場』の代表であり、土木関係の会社を経営する彼は「どんな仕事でも、3年やれば見えてくるものがある」と真摯にプロレスに取り組んできた。格闘技のキャリアがあってもプロレスでは新人。「ここでは下の人間だから」と敬語を使い、アドバイスも求めた。そうして筋を通し、着実に結果を残して今回のタイトルマッチにこぎつけたのだ。

 チャンピオンは同じユニットのKUDO。非情に徹するため、あえて「これは戦争だ。殺し合いだ」と言って上がったメインイベントで、坂口はセミファイナルまでとはまったく色の違う闘いを見せた。ミドルキック、ヒザ蹴り、スリーパーにアームロック。王者・KUDOもキックボクシング出身だから、お互い数え切れないほど蹴り合った。派手な技はないかわりに、いつ試合が終わってもおかしくない緊張感があった。フィニッシュは、コーナーに釘付けにした相手の顔面に叩き込む〈神の右膝〉。シンプルにして説得力抜群の必殺技である。

宿命を乗り越えてたどり着いたリング。

 試合後。ベルトを巻いた坂口は、賞金のプレートをヒザで三つに叩き割った。“兄弟”である酒呑童子のメンバーと分け合うためだ。退場時には、ステージで出迎えるDDTの仲間たちに正座して深々と頭を下げた。

「このリングにたどりつけてよかった。幸せです」

 インタビュースペースでの記念撮影の際、坂口は右腕のタトゥーを指さした。かつてプロレスへの思いを断ち切るために入れ始めたタトゥーだが、その指の先にはDDTのロゴマークが彫られていた。

 彼はこの日、チャンピオンになり、その喜びを仲間と分かち合うことで“坂口征二の息子”という宿命を乗り越えたのだ。DDTの正式名称は〈ドラマチック・ドリーム・チーム〉。42歳で叶えた、劇的な夢だった。

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