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花咲徳栄が抱いた充実感と悔恨。
最後まで攻め続けた美しき敗者。 

text by

氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byHideki Sugiyama

posted2015/08/17 18:40

花咲徳栄が抱いた充実感と悔恨。最後まで攻め続けた美しき敗者。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

悔し泣きに崩れる花咲徳栄の選手。最後の最後まで諦めないその戦いぶりは、多くの人々の感動を呼んだはずだ。

終始積極的だった花咲徳栄の攻撃。

 2回裏に1点を先制されたものの、3回表に反撃に出る。吉田の鋭く切れる縦のスライダーを狙い打ったのだ。

 2死から2番・太田幸成が右翼への二塁打で出塁すると、相手守備がもたつく間に三塁へ進む。3番・岡崎大輔が中前へはじき返して同点。岡崎が4番・大滝の3球目に盗塁を成功させると、大滝も右翼前適時打で続き、逆転に成功する。太田、岡崎、大滝の3人ともスライダーを打っていた。

 4回表には1死から7番・笹谷拓海が、またもスライダーを狙って左翼二塁打で出塁。2死三塁と好機を広げると、9番・上村康太に相手投手・吉田がワイルドピッチ、1点を追加。

 ここで見逃せなかったのは花咲徳栄の積極的な攻めだ。3回2死からの二塁打を放った太田は、守備陣がもたついている間に三塁を陥れている。岡崎の適時打で1点を挙げてからも、即座に盗塁を決めるなど積極果敢だった。

歴戦のチームらしい戦術を見せた東海大相模。

 岩井は言う。

「燃料タンクをためてという気持ちはなかったですね。“帰り”の燃料を考えずに“行き”だけですべてを出すくらいの気持ちだった」

 4回に1点を返されたものの、依然として3-2でリード。

 この時点では、試合の主導権は花咲徳栄が握っていたといえた。4回にエースの小笠原を引きずり出していたことも、試合を優位に進めている証だった。

 しかし、それだけで崩せないのが優勝候補・東海大相模の強さだった。

 5、6回と立て続けに好機を作って攻撃の圧力をかけてくると、8回裏に強豪校らしい執念を見せてきた。先頭の豊田寛が右翼前安打で出塁すると、犠打で二進。ボークを挟んで1死三塁とすると、6番・長倉蓮がきっちりと犠牲フライを放ち同点としてきたのだ。

 花咲徳栄も8回に好機を作っていたのだが、2死二、三塁のチャンスでは7番・笹谷が敬遠で歩かされた。次打者が投手の高橋昴也だったからだ。歴戦のチームらしい「選択肢の確実性」を重視した戦いぶりを見せてきていた。

 そして、9回裏。花咲徳栄は東海大相模の圧力に屈する。

【次ページ】 「チームの目標はベストゲームをすること」

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