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ミスで自滅のメルセデスを慰めた、
エクレストンの“オシャレ”な言葉。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2015/08/02 10:40
1930年生まれ、御年84歳のバーニー・エクレストンだが、「F1の支配者」として今なお元気にサーキットを闊歩する。
ハンガリーGPでは、「ミス」が勝負を分ける。
ハンガリーGPの舞台であるハンガロリンクは「ガードレールがないモナコ」と言われるように、レースでのオーバーテイクシーンはほとんど見られない。
にもかかわらず、これだけ印象的なレースが多いのは、バトルやオーバーテイクだけではない魅力がレースにいくつも存在しているからだ。そして、そのひとつが、「ミス」ではないだろうか。
F1がどんなにハイテクになろうとも、人間が製造し人間が操る以上、そこにはミスが必ずつきまとい、だからドラマが生まれる。
F1公式サイトで11位にランクされた'97年のハンガリーGPがまさにそうだった。
1ポンドにも満たない安価なワッシャーの故障が……。
このレースで11周目からトップに立ち、レースを席巻したのは、前年にチャンピオンを獲得しながら、弱小チームのアロウズに移籍したデーモン・ヒルだった。
ヤマハの軽量・コンパクトなエンジンとブリヂストンの高温でもパフォーマンスダウンしにくいタイヤを武器に、曲がりくねったハンガロリンクを小気味よく周回するヒル。
30秒以上離れた2番手を走行していたのは、前年ヒルが在籍していたウイリアムズのジャック・ビルヌーブだった。
自分を追い出した古巣ウイリアムズを、ヒルが見返す見事な勝利をだれもが確信していた残り2周、ドラマが起きる。
突然ヒルのペースが落ち、30秒以上あったギャップはあっという間になくなって、ついにファイナルラップで逆転されてしまう。
それでもヒルはあきらめずに最後まで走りきり、2位でフィニッシュ。表彰式では優勝したビルヌーブよりも大きな声援を受けていたのが印象的だった。
当時、ヤマハと共に仕事をしていたハービー・ブラッシュは、18年前の悲劇は「いまでも忘れられない」と語る。
「レース後に原因を調べたら、壊れていたのはハイドロ系のポンプについていた1ポンドにも満たない安価なワッシャーだった。でも、それがレースというものなんだよ」
部品メーカーの製造上の不手際であり、その部品を使い続けたチーム側の責任もある。
しかし'70年代からF1に携わり、いまもFIAのオブザーバーとして全レースに帯同しているブラッシュは「だから、F1は面白い」のだと言い、18年前の敗戦を「いまでは誇らしい気持ちで振り返ることができるようになった」と自慢する。