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錦織圭、勝負の綾はブーイング?
“ノーシードで最も危険な男”に勝利。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byTomoki Momozono
posted2015/05/28 11:20
全仏の日本人最高記録は、戦前の1931年、1933年に佐藤次郎が記録したベスト4。あと3勝で並び4勝で史上最高に。錦織圭はどこまでいくのだろうか。
錦織が浴びたブーイングが試合の転機に。
5-5からのベルッシのサービスゲームで、錦織が相手のサーブを「アウト」とジャッジして、みずからラリーを中断する場面があった。錦織はボールの落下地点を確認するよう主審に要求したが、判定は「イン」。それでも食い下がる錦織に、センターコートの観客席から小さなブーイングが起きた。
嫌なムードになりかけた。ところが、ここでゲームは別の方向に大きく舵を切る。
次のポイントはベルッシのダブルフォールト。彼もまた、大事なゲームで硬くなったのか。30-40で錦織にブレークポイント、通算6度目のブレークチャンスだった。これを初めてものにして、6-5と先行。次のサービスゲームをキープして7-5でセットを奪った。
何がきっかけになるかわからない。緊迫した試合では、ちょっとしたことが勝負の綾を作り出すのである。
ただ、このブレークは錦織が一枚上手だったと見ることもできる。
ブレークポイントで錦織はラリーのテンポを落とし、我慢比べのロングラリーを挑んだ。そうして相手を揺さぶり、前に踏み込むと糸を引くようなフォアのダウン・ザ・ラインを放った。十分に緩急をつけた組み立てに、ベルッシはついてくることができなかった。
「ブレークしたゲームは、しっかりとミスもせず、攻撃的なプレーができた」と錦織。
相手のフルスイングの圧力に押し込まれたものの……。
第2セットは錦織が4-0と大きくリードした。第1セット途中から7ゲーム連取。これで錦織が主導権を握った。
「1セット目を取って余裕ができて、2セット目も大きくリードできた。1セット目がすごく大きかった」と錦織はストレート勝ちで決着した試合を振り返った。
戦前の予想通りというべきか、難しい試合だった。ベルッシは錦織のストロークにタイミングをあわせ、全部フルスイングで返してきた。その圧力に押し下げられた錦織は、前に入って速いタイミングのショットを打つ機会を見いだせなかった。
「自分自身、決断できていない部分があったので、打っていくことに自信がなかった」と錦織は正直だった。