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「タダ券は絶対に配らない」
J2ファジアーノ岡山の流儀。
posted2015/05/12 11:00
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph by
Tadashi Shirasawa
いかにしてお客さんを増やすか。
飲食店や小売業と同じく、Jリーグクラブの経営者も、常にこのことに頭を悩ませている。観戦チケット代だけでなく、来場者がスタジアムで使う飲食代やグッズの売り上げはクラブの収入に直結し、それがチームの強化費につながるからだ。単に入場者の「数」を増やすことを目指すならば、“手っ取り早い”方法がある。
タダ券を配ればいい。
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これをすれば、間違いなく入場者は増える。無料で招待するわけだから、もちろんチケット収入はないが、無料入場者でもスタジアムでの飲食やグッズ購入にはお金を使うし、彼らが生観戦の魅力にハマり、リピーターとなれば、次はチケットを買ってくれる可能性もある。
親企業を持つクラブならば、無料招待券を自社の顧客サービスに使うこともできる。プロ野球の球団を傘下に持つ新聞社が、新規購読者を勧誘する際にスタジアムへの無料招待券を配るのは、わかりやすい例だ。サッカー界でも、アルビレックス新潟は「タダ券」を活用して地域にクラブの存在を根付かせた。J1への初昇格を決めた'03年には、1試合平均で3万339人(無料入場者を含む)がスタジアムに足を運んでいる。
「『金を払っていけよ』という文化を作りたい」
では、アルビレックスと同じく親企業を持たない地方市民クラブであるファジアーノ岡山の場合はどうか。彼らは今季からホームゲーム平均入場者数1万人を目指す「CHALLENGE1」プロジェクトをスタートさせている。ベガルタ仙台('01年、1万4011人)、大分トリニータ('02年、1万2349人)、アルビレックス新潟、松本山雅('14年、1万2733人)といった地方市民クラブが、いずれも平均1万人を突破してJ1初昇格を成し遂げていることを意識してのものだ。
ファジアーノ岡山の昨季のホームゲーム平均入場者は8404人。もし今季、タダ券をたくさん配れば、1万人は手の届く目標にも思える。しかし、代表取締役の木村正明の考えは違う。元ゴールドマン・サックス証券の執行役員である彼は、Number877号のインタビューで、タダ券の活用をきっぱりと否定した。
「『無料なら観に行ってもいいよ』という人が一番多いのはわかっています。でも、うちは一切、無料招待券を配っていません。シティライトスタジアムの収容人数は1万5600人ですから、有料入場者で満員にしたい。僕が東京から岡山に帰ってきた当初から『タダ券をよこせ』と言われることは覚悟していましたし、実際に言われることもあります。でもそこはプロクラブとして、『タダはなしです』ということを徹底してきました。『タダ券をよこせ』という人が、周りから『金を払って行けよ』と言われるような文化をつくりたかったからです」