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青木宣親、「笑わない男」の前に散る。
WSを制した大エース、バムガーナー。
posted2014/10/30 14:15
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
AFLO
「ミスター・オクトーバー」の誕生だ。
MLBで過去にこの称号を与えられてきたのは、レジー・ジャクソンなどスラッガーたちだった。
しかし今年は違う。ジャイアンツのエース、マディソン・バムガーナーが、ワールドシリーズ第1戦、第5戦で2勝、おまけに第7戦でも5イニングを投げてセーブまでマークしてしまったのである!
3勝3敗で迎えた第7戦。「俺たちに明日はない」最終戦だけに、両軍ともに序盤から惜しみなく投手を使っての継投に入った。
バムガーナーは「笑わない男」だ。いつでも淡々とマウンドで仕事をする絶対的なエースを、ボウチー監督は5回からつぎ込んだ。
ロイヤルズのヨースト監督は、
「彼がリリーフとしてどんな投球を見せるのか、間もなく分かる」
と余裕とも思える発言を試合前にしていたが、攻略の糸口を見つけられなかった。
5回に登板したバムガーナーはなんとなんと、ゲームセットまで投げきってしまったのである。ボウチー監督はクローザーのカシーヤを使わず、最後の最後までバムガーナーを信じた。「適材適所」の采配で知られる監督だが、最後は理屈抜きでエースとの心中を選択した。
2014年のメジャーリーグは「バムガーナーのワールドシリーズ」として記憶されることになるだろう。
インステップと、しなる左腕。
バムガーナーと3試合対戦したロイヤルズは、なぜ彼を攻略できなかったのだろうか。
主軸に左打者を多く抱えるロイヤルズにとって、変則的な投げ方をする左腕のバムガーナーは、とにかく相性が悪かった。まさに「鬼門」だったのである。
バムガーナーの特色は、
・一塁側に踏み出す「インステップ」
・ブーメランのようにしなる左腕
の2点だ。