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<特別寄稿>
松岡修造「圭は何故、ここまで強くなれたか」
posted2014/09/29 11:30
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph by
Yukihito Taguchi
世界ランク1位のジョコビッチを破り、日本勢として初めてグランドスラムのファイナルにまで上り詰めた。天才アスリートを11歳から見つめ続ける松岡修造氏が「覚醒の秘密」を解き明かす。
あらゆる新聞の紙面に“錦織快挙”という言葉が躍る。
11歳の圭に初めて会った日から、この時が来ることを確信していた僕にとっては、驚きというよりも“よくぞやってくれた”という感謝の気持ちが強い。特に今回、僕が目をみはったのは、圭の勝利の仕方だった。
心技体、その全てにおいて圭は生まれ変わっていた。
ストロークの軸はさらにしっかりとし、早い段階からポイントの主導権を握り相手を威圧していく。ネットに出る回数も多くなり理想的なテニスに近づいていた。
またコートのカバーリングの良さだけではなく、ピンチをチャンスに変えてしまうショットも炸裂し、どこにも隙がない。
では、何故ここまで強くなったのか?
その理由は今年からスペシャルコーチとして“Team KEI”に加わったマイケル・チャンが、新たなエネルギーを注入したことに他ならない。
1989年、17歳で全仏オープンを制覇し、世界ランク2位まで上り詰めたチャンは身長175cm。僕も現役時代、3度対戦したことがある。このとき、彼の強さとして実感したのは、チャンの「絶対にできる!」という強靱なメンタル、コツコツと同じことを繰り返す反復力だ。
そして、極めつけの武器は“戦略”のスペシャリストであるということだ。この“戦略”という要素はまさに、天才的プレイヤーと言われつつも、これまで圭が持っていなかったものであり、しかしトップにたどり着くためには絶対的に必要なものだった。