オリンピックへの道BACK NUMBER
なぜ内村航平の士気は下がらないか。
世界選手権で狙う2つの金と“美しさ”。
posted2014/09/30 10:30
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
内村航平は、世界中の誰もが認める、屈指のオールラウンダーである。
世界選手権の個人総合では2009年から昨年まで4連覇(2012年は実施されていない)。内村の前には2大会連続優勝した選手しかいなかったことが、4連覇の価値を物語る。
絶対的本命として臨んだ2012年のロンドン五輪でも、金メダルを手にした。
「負けるのではないか」と思わせることすらないほど、オールラウンダーとして突出する内村は、体操の歴史に間違いなく名を残す存在である。
その実力と存在感は、今シーズンも変わらない。
4月に行なわれたワールドカップ東京大会の個人総合で優勝。10月3日に中国・南寧で開幕する世界選手権日本代表入りをいち早く決める。
5月の全日本選手権では7連覇を達成し、6月のNHK杯では6連覇を果たした。ともに最多記録である。
実は内村は、5月初頭に左肩の筋肉を痛めた状態でこれらの大会に出場していた。日本には、昨年の世界選手権個人総合銀メダルの加藤凌平、野々村笙吾と、世界でもトップクラスのオールラウンダーがいる。国内の大会だからといって安閑とできない状況がある中、万全ではないにもかかわらず、優勝して見せたのだ。その事実もまた、あらためて内村の地力を示すものだった。
世界一を何度手にしても、衰えないモチベーション。
それだけの地位を築きながら、なお進化への志も衰えない。8月の合宿では、跳馬で取り組んでいたという新技を披露。その他の種目でも、Dスコア(演技価値点。技の難しさを評価するもの)が上がるような構成に取り組んでいることを見せた。
その原動力は、体操に取り組む上での変わらない姿勢にある。
内村は、高校時代から、より難しい技へと挑戦してきた。今できないことでも、いつかはできる、やりたい。そんな向上心とともに歩み、今なお、そう思っている。
なおかつ、日本の体操界が志向してきたのと同様、技を美しく見せたいと思い続けてきた。難しいことを、より美しく。それが内村の演技を支えている。
その内村の価値観は、世界一を何度も手にしてもいっこうにモチベーションが低下しないことにも表れている。自身の内部に、成績という外の要因に左右されない、体操に対する確固たる基準、価値観があるからだろう。