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「自分たち」の前に「自分らしさ」。
ザックの指示を超える主体性を。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byGetty Images
posted2014/06/24 10:30
岡崎、そして大久保とのコンビで右サイドを制圧している内田篤人。CLに出場し続ける男は、日本代表の中でも大舞台の経験は群を抜いている。
メッシのシュートの瞬間、5人がエリア内に。
オランダ同様に2試合でベスト16入りを決めたアルゼンチンも、際どいゲームを強いられている。イランとの第2戦は0-0のまま推移し、後半は試合の主導権を握られた。攻撃力で相手をねじ伏せるアルゼンチンからすれば、明らかにイランのペースにはまってしまった展開だった。
ならばなぜ、アルゼンチンはイランを振り切ることができたのか。90+1分に決勝点が生まれたのか。
得点者はメッシである。世界最高峰の「個」がチームを救ったわけだが、得点を奪う意識はピッチ上の共通認識となっていた。メッシがシュートした瞬間、5人の選手がペナルティエリア内に押し寄せていたのである。
「自分たち」の前に「自分のサッカー」を。
グループステージが第2戦に突入してから、ブラジルのメディアで「MORTE」という単語をひんぱんに見かける。直訳すると「死」だ。大会からの撤退と背中合わせで戦うチームが、それだけ増えている。
どのチームも必死だ。優勝候補も例外ではない。闘志をこえた獣性が、剥き出しでぶつかり合っている。球際の厳しさはどの国も第1戦を上回り、相手がスーパースターでも決してひるまない。衝突音が響き渡るほど、深く強いチャージだ。
だからといって、ダーティーなわけではない。ボールの行き先を決めるのは、真っ直ぐな激しさである。
グループステージの2試合を終えた日本に対して、すでにいくつかの“敗因”が指摘されている。コンディショニングの失敗や試合開催都市とキャンプ地の寒暖差、ザックのチームマネジメントなど……。
そうしたものが結果を左右するのは、もちろん間違いないだろう。だが、そもそも日本は力を出し切っていない。「自分たちのサッカー」をする以前に、一人ひとりが「自分のサッカー」をしていないと思うのだ。「自分たちのサッカーをして勝つ」という命題が縛めとなり、自分にできることを出し切っていない選手があまりに多い。