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橋口調教師、ダービー初制覇の「涙」。
ワンアンドオンリーと追う新たな夢。
posted2014/06/02 11:50
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph by
Yuji Takahashi
「こういうときは泣いてもいいのかな」
検量室前の「1」と刻印された、勝ち馬のための枠場で、橋口弘次郎調教師がつぶやいた――。
14万人近い大観衆を集めて行なわれた第81回日本ダービー(6月1日、東京芝2400m、GI)を制したのは、3番人気に支持されたワンアンドオンリー(牡3歳、父ハーツクライ、栗東・橋口弘次郎厩舎)だった。
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鞍上の横山典弘は、2009年のロジユニヴァースにつづく2勝目。管理する橋口調教師は、1990年にツルマルミマタオーで初参戦して以来、現役最多の20頭目の出走馬で、ついに悲願のビッグタイトルを手中におさめた。
後方待機策から一転、好位につけたワンアンドオンリー。
宣言どおりエキマエが逃げ、武豊のトーセンスターダムが2番手で、17頭が1コーナーに進入した。
2馬身ほど後ろに、1番人気の蛯名正義・イスラボニータがつけた。横山のワンアンドオンリーは、それまでの後方待機策から一転して、イスラボニータをマークするような形で好位4、5番手の内につけた。
「間違いなくスローペースになると思っていました。きょうはなめらかに加速してくれましたね。脚を余して負けるのだけは嫌だったんです」
横山はそう振り返る。
しかし、前に行ったぶん馬がやる気になりすぎたのか、横山は道中、重心を後ろに置いて手綱をガチッと抑えていた。
「折り合いを欠いていたので、4コーナーでも、手応えがいいというより、無理に抑えているような感じだった」
エキマエが故障のため脱落し、トーセンスターダムが先頭で最後の直線に入った。外からイスラボニータが並びかけ、そのすぐ後ろで横山は進路ができるのを待った。
「前に最高の馬がいて、あの馬が道をつくってくれるだろうと思っていた。あそこまで来たら、あとは意地のぶつかり合いです」