REVERSE ANGLEBACK NUMBER
正攻法の遠藤は、相手役がいてこそ!
九重部屋三人衆の“やんちゃ”な個性。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byKyodo News
posted2014/05/22 10:50
5月場所7日目には横綱・鶴竜を破る金星を挙げ、破顔一笑の千代鳳。しかし、上位との対戦が続いた場所序盤は黒星が先行。初の三役で破竹の進撃とはならなかった。
いつも全力、清く、正しくでは面白くない。
千代鳳と千代丸は兄弟。今場所は2歳下の弟が番付では上に座っている。兄弟子の千代大龍をまねたのか、ふたりとももみあげが長く荒々しい。体型はともにマシュマロマンみたいな典型的あんこ形。細く幾分つり上がった目は、アメリカの古いマンガに出てくる東洋人を思わせる。
取り口は千代大龍に似た突き押しだが、ふたりとも引いたり、はたいたりするよりは、どこまでも相手についていく押し相撲。体の割に大きなパワーは感じないのだが、しつこくじりじり押してくる。特に弟の千代鳳は引いてもはたいても前に落ちない。足を送ってついてくる。前のめりなのに落ちないしつこさが身上だ。
ふたりとも千代大龍ほどの「悪役感」はないのだが、大きな体(鳳は171kg、丸は183kg)なのに小手先で取っているような半端な感じ、全身全霊ではなく半身半霊ぐらいでやっているような取り口が、もどかしくもあり、楽しくもある。いつも全力、清く、正しくでは面白くない。
思い起こせば、千代の富士も暴れん坊であった。
九重部屋では突き押しの千代大海がいた。突っ張って突っ張って、引かれたり、粘られたら終わりという気風のいい取り口だったが、同時に「入門以前はワルだった」というエピソードでも知られていた。本人もそれを隠したりせず、悪童と見られることを楽しんでいた節がある。御大千代の富士にしても国民栄誉賞受賞者だが、決してお行儀の点で国民に範を垂れるような人でなかったのはみんな知っていた。暴れん坊だからこそ好かれたというところもある。
今の3人が先輩ほどの「タマ」かどうかは知らない。だが、少なくとも土俵に上った時ににじみ出る雰囲気は間違いなく九重部屋のものだ。
見に行った6日目は、3人ともあえなく敗れた。丸は突き押しで攻め込んだが粘られると息切れして押し出されてしまった。あっけないのも部屋の色。