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バイエルンを苦しめた「弱者の戦い」。
フル出場の香川真司が感じたこと。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byREUTERS/AFLO
posted2014/04/10 12:25
「ユナイテッドは、ホームの時と同様(GKの)デ・ヘアと8人もの選手で守備を固めていて、ほとんどスペースも無かった。(敵の先制ゴールから)1分ほどで追いつけたことは、運もあったかもしれない」と試合後に語っているグアルディオラ。
局面で守り方を変え、反攻も見せたユナイテッド。
ユナイテッドは局面によってフォーメーションも守備のコンセプトも変えている。ゴールキックなど、相手が深い位置から攻撃を組み立ててくるときには、ルーニー、ウェルベック、バレンシアが相手のセンターバック2人とアンカーのクロースに激しくプレッシャーをかけにいく。それに気づいたラームが途中からセンターバックの間に入っていったが、今度は香川がそこについていくことで、簡単なビルドアップは許さない。
もっとも、バイエルンがユナイテッド陣内に入ってきてからは、プレッシャーをゆるめてラインを下げた。香川が左サイド、バレンシアが右サイドに開きDFラインの前でキャリック、フレッチャーとともにもう一つのラインを形成してスペースを消した。
サイドからクロスを上げられた場面は何度かあったものの、人数の揃う中央で跳ね返すことができたし、ロッベンがサイドから中央にドリブルして得意の形からシュートを狙ってきても、中央には両チームの選手たちが入り乱れていたため、シュートコース自体がほとんどなかった。
そして決して長い時間ではないが、ユナイテッドが自陣の低い位置から攻撃を組み立てられるときには、香川をトップ下にあげた4-2-1-3のような形を見せた。ルーニーがゴールに近い位置でプレーすることで、バイエルン守備陣にミスは許されなかったし、香川は得意とするトップ下に位置して、ピッチのいたるところに顔を出していた。
皮肉にも「弱者の戦い」がモイーズの手腕を引き出した。
「もうちょっとボールをもらえる回数を増やしたかったですけど、やっぱり、なかなかそうさせてくれない。そこは課題だと思っている」
香川は試合後に悔しさをにじませたが、前半のユナイテッドは王者バイエルンのホームに乗り込むチームとして、隙のない戦いを見せていた。
プレミアリーグでの低調なサッカーゆえに批判を受けているモイーズだが、弱者として戦う術は熟知している。それが長年エバートンで慣れ親しんできたものだからなのか、そもそも彼の理想とするサッカーだからなのか、答えを見つけるのは容易ではない。それでも皮肉なことに、弱者の立場からゲームプランを描くとき、モイーズの手腕はいかんなく発揮された。