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野村克也、谷繁元信の叱咤を糧に。
忍耐の1億円プレーヤー、嶋基宏。 

text by

田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byNaoya Sanuki

posted2013/12/11 10:30

野村克也、谷繁元信の叱咤を糧に。忍耐の1億円プレーヤー、嶋基宏。<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

史上最年少の27歳で選手会長にも選ばれた嶋基宏。チームを、人を束ねる人柄は、捕手にとって最も大事なものの1つなのだ。

「お前は机の上だけでリードしている」

「お前は机の上だけでリードしている。だから、とんでもないリードをするんだよ。キャッチャーとして一番ダメなのは、ベンチで見ている人間から『それはやっちゃいけないだろ』と思われるプレーを続けること。逆に、それがひとつでも少なくなれば信頼されるし、チームを勝たせることができるから」

 それまでデータに頼っていた嶋が、「得意なコースだけどタイミングが合っていないから、もう1回同じボールを投げさせよう」といった案配で、感覚からも配球を考えられるようになったのだ。

 選手の自主性を重んじるマーティ・ブラウンが'10年に監督となったことも大いに影響したのだろう。この年、自身初の3割にベストナイン、ゴールデングラブ賞を獲得するなど、嶋にとって飛躍の1年となった。

 それでも、順風満帆とはいかないのが、あるいは嶋の野球人生なのかもしれない。

 被災者に活力を与えるべく優勝を誓った'11年は5位と結果を残せず、'12年も故障や不振から一時はレギュラーから外される苦闘の日々が続いた。

エースの田中、球団初の日本一を支えた打たれ強さ。

 だが、嶋はもう「打たれ弱い嶋」ではなかった。山崎の言葉がそれを物語る。

「'12年はあいつも悩んでいたと思う。でも、選手会長としてチームを引っ張る能力は身についていたし、周りの評価に惑わされるようなこともなくなった。だから、『今こそ自分がやるべきことをやれ。自分と戦え』って嶋に伝えたことはあった」

 '13年はエースの田中を前人未到の24連勝へと導くなどリーグ優勝の支えとなり、日本シリーズでも要注意人物である巨人の4番・阿部慎之助を、22打数2安打と完全に封じ込んだ。球団創設9年目にして初めての日本一。叩かれて伸びる。打たれ強い――。そんな嶋の特性が最大限に発揮されたようなシーズンだった。

 2度目のゴールデングラブ賞にベストナイン。そして、1億円プレーヤーとなった今、誰もが嶋を「球界を代表する捕手」だと認めていることだろう。

 来季から4年契約。楽天が球界に誇る旗頭は、もがき、苦しみながらもチームを常勝軍団へと飛躍させるべく邁進するのだ。

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