濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
女子格闘技のレジェンド、藤井惠引退。
彼女が示し続けた“闘う意味”とは。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2013/10/10 10:30
今年39歳になる藤井は、2004年のデビューから6年間無敗の22連勝。この試合で最終戦績は29戦26勝3敗となった。
「この世界にいてくれてありがとう」
だがアギラーとの引退試合は、不完全燃焼に終わってしまった。1ラウンド、アギラーの指が目を直撃するアクシデントで2度、試合中断に。ドクターとレフェリーは続行の判断を下したものの、再開後にパンチを被弾したこともあり、視界が完全に奪われて2R終了時にTKOが宣告された(後日、ストップ時点での判定=2-0でアギラー勝利に裁定変更)。
彼女のMMAキャリアには3つめの黒星がつき、ひどく腫らせた目から悔し涙をこぼす結末になってしまった。それでも、この試合は22連勝やパウンド・フォー・パウンド選出と並ぶ偉業だ。宇野や所、修斗王者や元UFCファイターを“従えて”藤井がメインイベントに登場したことは、長く語り継がれる日本女子格闘技の到達点にほかならない。
試合を終えたアギラーは、引退セレモニーでの藤井との会話を明かしてくれた。
「彼女がどんなに特別な存在なのかを伝えました。『この世界にいてくれてありがとう』って。私はメグミのようになりたくて、ずっと目標にしてきたんです」
藤井は、こう返事をしたそうだ。
「今度はあなたがそうなるのよ。みんなの目標に」
それは、彼女がすべての女子格闘家に届けたい言葉だったに違いない。