ゴルフボールの転がる先BACK NUMBER
シード権争いは石川遼だけじゃない。
米シニアに挑む51歳、井戸木鴻樹。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byAFLO
posted2013/08/30 10:30
全米プロシニアでは、4日間で-11を記録。2位に2打差をつけて優勝を果たした。
初めて知るウエイトトレーニングの重要さ。
もうひとつ、井戸木にはどうしても聞きたいことがあった。「どうしてあなたは若い頃とほぼ変わらないパフォーマンスができるのか?」。するとランガーは「毎日上腕を鍛えるウエイトトレーニングをして、下半身はジムでバイクをこいで鍛えているぐらいだよ。特別なことはなにもしてないね」と答えた。
だが、シーズン中のトレーニングはランニング中心、ジムに行くのはオフのときという井戸木にとっては、それは十分すぎるほど特別なことだった。ウエイトトレーニングの重要性を井戸木は海外に出て初めて知ったのである。
小柄な井戸木は、飛距離ではどうしても他の選手に劣る。米ツアーになれば、その差はさらに開くもの。外国人選手が6番アイアンで打つ場面では、4番ウッドで凌ぐなど、その差は歴然としていた。それまでの井戸木は体格差をギアに頼る部分が大きかった。国内ツアーにでも、選手のなかで最も長い47インチのドライバーを使い、戦いに臨んでいた。
慣れない文化と未知の魅力に満ちた米ツアー。
だがギアである程度カバーできていた国内ツアーと違い、タフな海外のコースでは体力が戦う上で大きなウエイトを占める。それがレギュラーツアーで、メジャートーナメントである全米プロともなればなおさらだ。
初日の序盤で4連続バーディを奪い、一時はリーダーボードの上位に名を連ねたものの、2日目は雨の影響でボールが転がらず、スコアメイクもままならなかった。数々の選手が苦戦を強いられたが、飛距離で劣る井戸木にとってはさらに苛酷なコンディション。途中から首に張りを覚えるなど、最後まで体力がもたず、結果は予選落ち。「もう少し体力をつければ、予選を通れるかもしれない手ごたえはある」。試合を終えた井戸木は悔しそうにつぶやきつつも「故障のない体づくりもしないと。毎日少しずつやらんとね」と新たな課題をこの戦いで見つけた。
50代にして初めて立った米ツアーの舞台。それは厳しいながらも、魅力に満ちた場だったのだろう。慣れない文化に戸惑いながら、井戸木は来年もアメリカで戦いたいと決意をした。
シニアメジャーは制したものの、来季のシニアツアーのシード権を獲得するには、今季賞金ランキング30位以内に入らなくてはならない。シニアツアーのシーズン終了は11月。松山や石川の陰に隠れながらも、井戸木は今も戦いの真っ只中にいる。