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〈敬遠騒動前のセンバツ〉松井秀喜に“真っ向勝負”した宮古のエース…2打席連続3ランで「周囲から、バカだと言われましたよ」
text by
藤島大Dai Fujishima
photograph byKYODO
posted2021/03/31 17:02
伝説となった5連続四球に、渋い表情の松井秀喜
その春から甲子園のラッキーゾーンは取り除かれた。松井秀喜は、すでに怪物性を定着させている。岩手県立宮古高校の横手投げ、元田尚伸は、広くなった外野を背に、ゴジラのアウトローを丹念につきながら、わずかな失投は振り向く空へ吸い込まれた。
'92年、3月27日、センバツ第1日、星稜の四番打者は、宮古との初戦で、2打席連続3ランを大会史に刻んだ。それは同年夏に発生する「事件」の明白な序章でもあった。
松井に真っ向勝負して「バカだ」と言われた
東横線の武蔵小杉駅。細身の元投手は、あまり変わらぬ体型と童顔で迎えにきてくれ、さっとタクシーをつかまえるや、取材の場所へと走らせた。「ま、エレクトロニクス関係の仕事とでも書いておいてください」。ビジネス人らしく言動のすべてが素早い。
30年ぶりに甲子園出場の宮古高は3対9で敗れている。単純計算では、松井を敬遠していれば勝負はもつれた。最速でも128km。「雑誌の記事によれば参加32校中でいちばん遅かった」体重65kgの主戦は、その後、巨人へ進む巨人と対峙、頭脳と術を駆使しながら4打数4安打7打点を許した。
「ずいぶん周囲から、バカだと言われましたよ。でも、あの事件があってからは、みんながコロっと変わって、お前は素晴らしい、って。人間は嫌だなあ、世の中はこわいなあ、そう思いましたよね」
事件とは、同じ年の夏の5打席連続敬遠を指す。このくだりを語って、口調はいっそう早くなった。
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