野ボール横丁BACK NUMBER
このまま戻っても、勝てない……。
2つの恐怖と戦う斎藤佑樹の今。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byTatsuo Harada
posted2013/07/03 12:05
6月22日、イースタンリーグのフューチャーズ戦で久々の実戦登板を果たした斎藤は、2回を1安打無失点に抑え、球速は最速136キロだった。
「あのときは開き直ろうにも開き直れなかった」
プロ入り後、斎藤が自分の能力の限界を痛感した場面は二度ある。最初はデビュー戦のロッテ戦だ。初回、3番・井口資仁に「ほとんどボール」の外角ストレートを右中間スタンドに放り込まれた。
「あの瞬間、プロの圧倒的なものを感じた。このままでは通用しないな、と」
投球術でかわすだけでは限界を感じていた2年目は、さらにレベルアップしようと、一時期、力勝負にこだわった。その「力」を木っ端微塵にされたのが5月12日の西武戦だった。
いつも以上にストレートが走っていたにもかかわらず、2回持たず、9失点でKOを食らった。
どんなときでも前向きな姿勢を失わない斎藤も、さすがに「あのときは開き直ろうにも開き直れなかった」と振り返る。
「このまま戻っても、また5勝とか6勝しかできないピッチャー」
こんな言葉にもその恐怖の根の深さを感じる。
「普通、ストライクを取れば取るほど有利になりますよね。でも、あれからは取れば取るほど投げる球がなくなって、どんどん追い込まれていくような感覚があった」
つまり、新フォームを自家薬籠中のものにし、根本的な球質自体を変えない限り、また同じ壁にぶつかることははっきりしている。
「このまま戻っても、また5勝とか6勝しかできないピッチャーになるだけ」
斎藤がここにきて慎重になっているのには、そんな理由もある。だが、斎藤が言う「ブレーキ」は、ある日突然なくなるという種類のものではない気がする。
斎藤がどこでブレーキペダルから足を離すのか。一軍復帰のタイミングはそこにかかっている。