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このまま戻っても、勝てない……。
2つの恐怖と戦う斎藤佑樹の今。  

text by

中村計

中村計Kei Nakamura

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photograph byTatsuo Harada

posted2013/07/03 12:05

このまま戻っても、勝てない……。2つの恐怖と戦う斎藤佑樹の今。 <Number Web> photograph by Tatsuo Harada

6月22日、イースタンリーグのフューチャーズ戦で久々の実戦登板を果たした斎藤は、2回を1安打無失点に抑え、球速は最速136キロだった。

 斎藤佑樹は今、2つの恐怖と戦っている。

 ひとつは、故障が再発するのではないかという怖れだ。

 斎藤が右肩を痛めたのは昨年11月の日本シリーズ第5戦だった。

「ちょっと変な感じはあったんですけど、アドレナリンも出ていたので、ぶりぶり投げてしまった。そうしたら翌朝、右肩が上がらなかったんです」

 右肩の関節唇損傷と診断された。

 痛み自体は4月中旬に消えた。だが、当初は「6月ぐらいには上で投げるつもり」と意気込んでいたが、時間が経つにつれ「何かがブレーキになっている」とトーンダウンしてきた。

 斎藤は2月のキャンプから大幅なフォーム改造に取り組んできた。痛みがなくなったとはいえ、これまでと同じ投げ方をしたのでは故障が再発してしまうからだ。

 ただ、その下半身主導の新フォームもまだ完全とは言えない。

「投げていても昔の悪い癖が出てしまうことがある。新しいフォームを100パーセントに近づけないと、体がもう大丈夫なんだってわかってくれない。今はその怖さと戦っている状況」

明らかに右肩をかばうような投げ方をしていた斎藤。

 それでも投球練習のときは、斎藤が言う「怖さ」はほとんど感じられなかった。しかし6月22日、フューチャーズ戦で233日振りに実戦復帰したときは、その「怖さ」の意味がはっきりとわかった。

 明らかに右肩をかばうような投げ方をしていたのだ。

 復帰2戦目となった6月30日のロッテ戦も、前回ほど顕著ではなかったが腕がスムーズに振れていなかった。

 腰痛に悩まされていたプロゴルファーがこんな話をしていたことがある。

「腰痛の9割は精神的なものだと言う医者もいる。まったく異常がないのに歩けない人もいれば、明らかに椎間板ヘルニアの状態なのに平気で運動している人もいる。怖い話を聞いた後って、普段、聞こえないような物音まで拾っちゃうものじゃないですか。腰痛もあれと同じで、腰痛だと思うと、いらん痛みまで探しちゃうんですよ。そうなってくると、もう痛みなんだか何なんだかわからない。だから痛いと思っても意識的に無視するしかないんです」

 今の斎藤も似たような状況にあるのかもしれない。

 もうひとつは一軍に復帰したとき、再び向き合わなければならないプロの打者に対する恐怖感だ。

【次ページ】 「あのときは開き直ろうにも開き直れなかった」

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